第15回有機養液栽培研究会大会を開催します
今年も有機養液栽培(プロバイオポニックス)研究会を開催いたします。今年は三重県津市、11月13日-14日です。ご興味のある方、ぜひ御参加ください。
https://sites.google.com/view/organichydroponics/
有機質肥料活用型養液栽培は、世界で初めて実用化した、水耕栽培で有機質肥料の利用を可能にした技術です。通常、水耕栽培で有機質肥料を加えると培養液が腐ってしまいます。腐った培養液に植物を育てようとしても根が腐り、うまく育ちません。このため、水耕栽培では化学肥料を使うのが常識でした。
土の栽培だと有機質肥料が使えるのに、なぜ水耕栽培では有機質肥料が使えないのでしょうか。土の中では2段階の分解(アンモニア化成 硝酸化成)が進みますが、水中だと1段階目の分解(アンモニア化成)で止まってしまいます。これが水の中だと腐敗してしまう原因です。
ではなぜ水中だと二段階目の硝酸化成が進まないのでしょうか。それは硝酸化成を担う微生物、硝化菌が有機物。嫌い、死んでしまうからです。
NASAのケネディ宇宙センターは、何とか水耕栽培で有機質肥料の利用を可能にしようと研究しましたが水中で硝酸化成が進まないことが原因で頓挫しました。
私は過去の研究者の失敗事例を論文で読んだ結果、どの研究者も硝化菌を他の微生物と分けて 培養していることに気がつきました。もしかしたら他の微生物と分けない方が硝化菌は元気に生きていけるのではないかという仮説を立てました。
そこで、日本酒の醸造方法をヒントに培養法を工夫してみると、水中でも土壌と同じように2段階の分解(アンモニア化成、硝酸化成)が進行するようになり、有機質肥料活用型養液栽培を実現することができました。現在はプロバイオポニックスとも呼ばれ、農水省により特色JASとしても認められています。
有機質肥料活用型養液栽培、プロバイオポニックスは、化学肥料を使うしかなかった水耕栽培の世界で、有機質肥料を利用することを可能にした技術です。これは、農林水産省が推進している「みどりの食料システム戦略」にも合致するものです。これまで捨てられていた有機物を肥料にできるのですから。
プロバイオポニックスは、「土壌を創る」という新しい技術にも応用できます。
月や火星には、農業で重要な「土壌」がありません。もちろん、これらの星には「土」はありますが、これは岩石を細かく砕いた砂礫(レゴリス)でしかなく、微生物はいません。このため、有機質肥料を加えると。
水中で分解が1段階目(アンモニア化成)しか進まなかったように、月や火星のレゴリスでは有機質肥料は腐ってしまいます。これでは植物は栽培できません。腐った有機物が根を痛めてしまうからです。有機質肥料を適切に分解し、植物を育てられる土壌(微生物が豊かに生息)は、地球にしか存在しません。
そして厄介なことに、土壌を創る技術はこれまでありませんでした。ですので、月や火星に人が移住しても、生ゴミや糞尿を肥料として利用できないという技術的課題を抱えていました。
しかしプロバイオポニックスの技術を応用すると、土壌を創ることができます。
ただの砂礫のカタマリでしかない月や火星の「土」に、プロバイオポニックスの微生物をくっつけると、微生物の豊かな「土壌」に変わります。土壌を創りだすこの技術を「土壌創生」技術と呼び、この技術で創り出した土壌を「創生土壌」と呼んでいます。
現在、月面での食料生産を可能にすべく、この創生土壌の研究を進めています。現在は、もみ殻燻炭を創生土壌に変える研究をしています。これですと、二酸化炭素を吸収して育ったイネからもみ殻燻炭を作るので、二酸化炭素の現象にもつながり、温暖化対策にもなります。
以上のような多様な研究を、今回の大会でご紹介する予定です。ぜひこの際、広くご参加いただけたらと存じます。