2000年穀倉地帯だった中山間地と歴史の浅い平地の農地

日本は山がちな地形のため、耕地の約4割が中山間地。斜面にあるから一枚一枚の田んぼが小さく、大きく広げることができない。このため、大型機械で一気に大面積を耕すことができず、自動化にも向かず、不利とされる。他方、平地の農地は広く一枚の田んぼとして耕せ、効率的。このため。

中山間地の田んぼはどんどん耕作放棄地となっている。大規模化しにくい中山間地は見捨てられても仕方ない、というのが大方の見方。私も、現状ではやむを得ない動きだとは思う。他方、「大丈夫かな?」とも思う。日本の歴史において、農業生産の中心はむしろ中山間地であったからだ。

平地の農業というのは意外に歴史が新しい。実は平らな場所での田んぼというのは作るのが難しかった。水抜きを自在にできるようにしないと生産性は上がらないのだけど、土地が平らだと水の抜けようがない。だから、水抜きするための水路を非常に長距離に渡って作らねばならない。

この水路の工事は、戦後昭和に至ってようやく完成した土地が多い。今は穀倉地帯となっている新潟平野はかつて、胸まで水没するような田んぼだったという。その水抜きができるようになったのは、戦後のことであるらしい。

広大な田んぼが効率的なのは、石油で動くトラクターがあるから。しかし石油が高騰したらどうなるのか?広大な平地の田んぼを、耕すことはできるのだろうか?そこに疑問がどうしても残る。

日本の稲作は、中山間地で始まった。その歴史は二千年にのぼる。日本の穀倉地帯と言えば長らく中山間地のことで、平地は農業しようのない沼地だった。疫病も発生しやすく、農業生産もうまくいかないため、長らく放置されていた。

平地を田んぼに変えることができるようになったのは、江戸時代に入る前後から。力のある戦国大名が音頭をとって大規模な水路を作り、平らな土地でも水抜きできるようにすることで、沼地を田んぼに変えることができるようになった。

それでも人力で干拓するには限界があり、平地の田んぼが中山間地よりも有利な農地になるには、「エネルギー革命」が必要だった。ブルドーザーがたくさんの土砂を運び、土を入れたり、大規模な水路を作ったりすることで水抜を確実にすることができるように。工事が完了したのは戦後のこと。

さて、これから石油が高騰し、今まで通り石油でトラクターを動かすことができないとなったとき、本当に平地の農業は効率的でいられるのだろうか?管理しきれるのだろうか?

中山間地は大雨が降っても、斜面だからすぐ水が抜ける。しかし平地だと水の逃げ道がない。もし中山間地の田んぼが失われると、大雨が降ったら中山間地の水は一気に平地に集まるだろう。すると、平地に仕込んだ水路の能力を超えた水が押し寄せかねない。

今の平地が洪水にならずに済むのは、中山間地の田んぼがダムになり、いったん水を蓄えてくれるから。しかし中山間地の田んぼが失われ、中山間地に降った雨が全て平地に速やかに流れ込んだら、平地の水路の排水能力を超えてしまうかもしれない。

今の日本では、石油で動くトラクターを利用できるのは当たり前だと考えられている。しかし、今後はどうなるかわからない。石油利用が始まったばかりの時代は掘るのに要したエネルギーの200倍の石油が採れた。しかし近年は10倍を切ることも。

採るのに要するエネルギーの3倍以下になると、エネルギー的に赤字になるという。採れば採るほどエネルギー的に損になる。近年、その数字に近づきつつある。エネルギーとしての魅力を石油は失いつつある。しかし。

トラクターや大型トラックなどの大型機械は、ほとんどのエネルギーを石油に頼っている。電気で動かす研究も行われているようだが、今のところ非現実的なようす。大型トラクターを動かす太陽電池を設置するのに億を超す投資が必要だったりして、経費的にペイさせる見込みが立たないという。

大型トラクターを動かすエネルギーが確保できなくなったとき、果たして平地の農地は本当に「効率的」なのだろうか?私にはまだ判断がつかない。他方、二千年もの間、農業生産の中心だった中山間地は農地として機能しなくなりつつある。しかし人力で制御しやすいのはむしろ中山間地だった歴史がある。

石油がエネルギーとして手に入らなくなったとき、平地での農業生産は持続可能なのか?その時には中山間地地が荒廃してしまったとして、水害が起きたら平地の農地は洪水にあわずに済むのか?中山間地が一度荒廃したなら、農地に戻すのは困難を極める。ブルドーザーを動かすエネルギーはあるのか?

これからは予測困難な時代へと突入する。現在の石油エネルギーの安い時代は、いつまでも続くわけではない。石油を利用できない時代に、果たして平地の食糧生産は続けられるのか?十分なシミュレーションをしないと、危険なように思う。

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