ラーメン屋の成功と修正資本主義
この話を読んで、ヘンリー・フォードを思い出した。フォードは自動車製造会社を設立。しかし当時アメリカは自由主義の時代、労働者は低賃金、長時間労働。腕の良い労働者はどんどん辞めるし、自動車は故障が多く、会社の経営はなかなか安定しなかった。
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そこでフォードは、それまでの工業経営ではあり得ない大胆な改革を行った。1日8時間労働、週休二日、給料は他の工場の3倍払うという破格の待遇。
とこの経営者も、資本家も、「そんなの労働者をつけ上がらせるだけ、やめておけ、会社を潰す気か?」と忠告、批判した。
ところが。腕の良い職人が定着し、労働時間が短いから集中力があり、不良品はぐんと減り、自動車の製造数を大幅に増やすことができた。しかも給料が高いから、自社の労働者が自動車を買って乗り回す、好循環が生まれるようになった。
岸田さんの紹介したラーメン屋は、まさにフォードと同じように、待遇を改善することで「新しい価値」を生み出したわけだ。
「新しい価値」といえば、ロバート・オウエンを思い出す。オウエンはフォードよりさらに時代を遡って、産業革命真っ只中の人物。資本家が労働者を食い物にしていた時代。
12時間労働は当たり前、給料は食えるかどうかのギリギリの低賃金、幼児でも働かせていた時代。あまりの過酷な労働と待遇の悪さで若死にする労働者が多かった。
そんな時代にオウエンは、給料を十分に渡し、労働時間を短くし、生活用品を安く手に入れられるようにした。労働者にゆとりを与えた。
やはり当時の資本家や経営者は大反対した。そんなことをしてもムダだ、あいつらは酒で全部使ってしまうような連中だ、ただ収益を減らすだけの愚かな行為だ、と非難轟々。
しかしオウエンの経営する工場は世界一細い糸を紡ぐことに成功、この商品は高く売れ、経営的にも大成功をおさめた。
高待遇が労働者にゆとりを与え、職場での工夫をする余力を確保し、商品の不良率を大幅に引き下げ、品質向上をはかることを可能にした。一つにはオウエンの工場での指導の上手さもあってだが、労働者の意欲を引き出すのに、好待遇が果たした役割は大きかった。
岸田さんの食べたラーメン屋も、ただ給料を改善しただけでなく、そもそも若者をうまくやる気にさせる手腕があったことも大きいだろう。しかしいくら手腕があっても、待遇が悪ければ人は離れる。定着しない。工夫をする余力も生まれない。それを好待遇が可能にしたのだろう。
このように、労働者に好待遇を行うことで経済は上向く、としたのがケインズによる修正資本主義。この修正資本主義は、それまでの自由主義経済とも、あるいはマルクス経済学とも違う大きな特徴があった。それは「生産」ではなく「消費」に軸足を置いたこと。
産業革命で労働者を搾り取った自由主義も、それへの反発として生まれたマルクス主義も、生産に軸足を置いた。モノを作れば売れる、もし売れないなら価格を下げて売ればよい、そのためには生産性を上げよ、という考え。しかし欲しがる消費者がいないのに、たくさんの商品を作っても売れ残る。
しかし自由主義もマルクス主義も、「売れないならもっと生産性を上げて価格を下げて売ればいい」という考えから脱却できず。これでは商品の価格が下がり、売れないから給料が下がり、だから誰も買わなくなってさらに売れなくなり・・・のデフレに陥ってしまう。
ケインズは消費に軸足を置く考えから、労働者の賃金を上げよと提案した。給料が上がれば消費が増える。消費か増えると商品は売れる。工場も儲かるから賃金を増やせる。さらに売れるようにと新商品を開発する。それが消費を刺激する。こうした好循環が生まれると考えた。
この修正資本主義を西欧、アメリカ、日本が採用したから、西側諸国は繁栄を築くことができた。他方、マルクス主義の国は昔ながらの商品を作るばかりで変わり映えがなく、経済が停滞した。生産に軸足を置いた考え方だったからだろう。
岸田さん紹介のラーメン屋が成功したのは、ただ従業員の待遇をよくしただけではなく、顧客への満足度を上げるにはどうしたらよいか、に軸足を置いていたことが功を奏したのだろう。ラーメンの価格を上げるけれども、顧客満足度は下げない、むしろ上げるには?を考え尽くしたのだろう。
岸田さん紹介のラーメン屋の事例は、とても示唆的だと思う。日本は再び、修正資本主義の道を歩むとよいように思う。労働者の待遇を改善し、それで生まれた余力で顧客満足度の向上も目指す。そうした好循環の事例がたくさん生まれてくることを願う。