病虫害が診断できなくなる日
病害虫のことを網羅的に知り尽くした農業研究者がいなくなりつつある。50代後半より上の世代は現場に入って様々な病虫害を観察し、膨大な経験を重ねている。見れば一発でどんな害虫か、あるいは病気か、見当をつけることができる。これ、50代前半より若い世代はできない。
バクテリア専門はバクテリアしかわからない。カビ屋はカビしかわからない。ウイルス屋はウイルスしかわからない。若い世代は、良くも悪くも専門バカになっている。私も青枯病とトマトのフザリウム病くらいしかわからない。ダイコンとかになったらもう全然見当がつかない。
今日、AIアプリで診断を試みてみたが、残念ながらキスジノミハムシによる食害だとは診断できなかった。いちおう、評判の良いアプリだったのだが、葉っぱのかじられたのは診断できても、ダイコンそのものがかじられたデータがなかったため、診断できなかった様子。
まだ50代後半以降の病虫害研究者が研究現場に身を置いている間に、その知見を引き継ぐ必要がある。しかしAIはまだその域に達していない。メジャーどころしか診断できない。若い世代は先輩たちのようには全然できない。これがなかなか深刻。
県の農業研究所には、まだ現場を走り回る人がいて、若くてもいろんな病虫害を診断できる人はいる。とはいえ、かなり減っている。やはり県の研究者でも、特定の病害虫しか知らない、という人が増えている。なんでも一通りわかるゼネラリストがいなくなってきている。
ベテランの病虫害研究者に、AIアプリの誤りを修正し、データをアップロードする権限を渡したほうがよいように思う。そのための専用アプリを開発し、気軽に修正データを送れるようにする仕組みを設けたほうがよい。でも、そうした仕組みはまだない様子。
日本はこうしたアプリを作った場合、更新されないことが多い。予算が確保できなくて、作り込んだ時に時計の針が止まってしまう。本来、こうしたアプリは、更新に次ぐ更新がなされなければあまり意味がない。しかし、年度予算で動く公的機関は、こうしたアプリの開発環境を作るのが下手なことが多い。
病虫害研究者のベテランが現場からいなくなるのは、あと数年。この間に、せめてAIでもいいから知見を移植できたらよいのだけれど、間に合うかどうか。病虫害の診断ができなくなると、農業生産に微妙に悪影響が出てくる心配がある。