「薬害エイズを未然に防いだ男」、「新型コロナ大量死を未然に防いだ男」の行く末

私は西浦先生を尊敬し、深く感謝しています。西浦先生が警告を発しなければ、かなりの数の死者が出ていたでしょう。商業の人たちはご苦労されたかもしれませんが、その責任は様々な業界を調整し政策決定する政府にあります。西浦先生は専門家として大変立派だったと深く敬愛致します。
https://twitter.com/nishiurah/status/1688762722744455168?t=geGdd_EoEzBDzoms4KAF8g&s=19

私は昔、「薬害エイズを未然に防いだ男」という架空の物語を考えたことがある。このままでは薬害エイズが起きてしまうと気づいた官僚が、クビになるのを覚悟でマスコミにリークし、それによって薬害を未然に防いだものの、厚生省をクビになってしまう。

家族からは「なぜクビなるようなことしたの、厚生省は国民の健康を守るための組織でしょう、あなたが余計なことをしなくても誰かが止めて薬害は起きずに済んだんじゃないの、これから子どもの進学もあるのに、クビになってどうするの?」と責められる。

当時の官僚なら、本来は天下り先が用意されるところ、内部情報をリークしたとんでもないヤツ、ということで再就職先を用意してもらえず、給料も待遇も悪い仕事につかざるを得ない。薬害は未然に防がれたから騒ぎにもならず、誰も自分のおかげだと気づく者もおらず、感謝してくれる者もいない。

公園で一人たたずみながら、「オレは何を張り切って内部リークなんかしちまったのだろう?オレのしたことに感謝してくれるどころか、気づいてももらえない。オレの人生、何だったのだろう・・・」と、自分のしたことに自信が持てなくなってしまうだろう。私は、そう考えた。

だから薬害エイズ事件は起こったのだろう。官僚のみんなが「自分が止めなくても誰かが止めるだろう、オレが止めても貧乏くじ引くだけだからやめておこう」と考えたから、誰も止められなかったのだろう。「薬害エイズを未然に防いだ男」は、だから現れなかったのだろう。

西浦先生は、驚くべきことに「薬害エイズを未然に防いだ男」と同じ役回りを果たした。西浦先生なかりせば、恐らく相当の数の死者が発生しただろう。しかし未然に防いでしまったからこそ、感謝する人はいないという皮肉な状況に置かれている。むしろ批判する者までいる。

西浦先生の苦境を見た若者はどう思うだろう。もし薬害エイズ事件のようなことが目の前で進行しても、誰も止めようとせずに放置してしまうのではないか。勇気を出して声を上げてもなんの得にもならない、むしろ自分の人生を台無しにしてしまうだけだ、自分が声を挙げなくても誰かがやるだろう、と。

西浦先生のような人が現れたのは、日本にとって奇跡だと思う。私は、西浦先生の勇気は称賛されてしかるべきだと思う。もし西浦先生の勇気を評価しなければ、太平洋戦争へと突入し泥沼の戦争に突っ込んだかつての日本の愚かさを繰り返すことになるだろう。

繰り返すが、経済への影響を考えるのは政治家の仕事であり、責任でもある。西浦先生は、もし何も手を打たなければどうなるかの予測を述べた。それを材料にどう考えるのかは、政治家の仕事。西浦先生は警告を発するまでが仕事。その意味で、西浦先生の仕事は素晴らしかったと思う。

西浦先生のように「薬害エイズを未然に防いだ男」を日本は生み出し続けることができるのか。それとも「薬害エイズを未然に防ぐことができない面々」ばかりを生み出すだけなのか。私達はどうあるべきか、よくよく考えなければならない。

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