専門分化と分業化が高度に進んだネットワーク故の脆弱さ
「ローマ帝国の崩壊」(ブライアント・ウォード・パーキンズ)読んでる。
ゲルマン人の大移動はローマ帝国のネットワークをズタズタにし、(すぐにではないが)生活水準が大きく下がった。誰もが安価に機能的な陶器を手に入れられたのに、それも手に入らなくなった。
ローマ帝国崩壊でなぜ生活水準が著しく低下したか。それはあまりにも複雑なネットワークで、分業化が進んでいたからだ、という。ゲルマン人がローマ帝国を滅ぼしたために、兵士は給料がもらえなくなり、武器を作る職人は仕事を失い、原材料を提供する人間が路頭に迷い。市民は購買力を失った。
購買力の低下は、旧西ローマ帝国内での交易を徐々に、徐々に細らせ、ついには専門分化した仕事では生きていけなくなり、自給自足社会へとシフトしていった。ついには自分たちの足元で高度な文明が花開いていたことも忘れてしまうほどに。
著者は文明=高度に専門分化され、分業化の進んだ複雑なネットワーク、と定義している。ローマ帝国はまさに専門分化が進み、分業化していたために、ネットワークがズタズタにされると途端に食いつめ、自給自足社会へとシフトしていくしかなかった。これは現代でも示唆的な気がする。
現代社会も高度に専門分化し、分業化が進んだ複雑なネットワークとなっている。ローマ帝国と違うのは、国家の枠組みが一応機能し、分散型ではあるが。
ここからは私の勝手な感想。新型コロナとGAFAのようなネット企業が、悪くすると「ゲルマン人の大移動」的に働くリスクもあるように思う。
新型コロナは、旅行業や航空業、飲食業などに壊滅的な打撃を与えようとしている。ワクチンが効果を示せばよいが、予断を許さない。他方、GAFAなどのネット企業は元気だ。人がいなくてもサービスを提供できるから。ネット企業はコロナ社会でも人を結びつけるツールだが、他方、雇用にはつながらない。
これまで広告収入で雇用を守っていた新聞やテレビは、ネット企業に広告収入を奪われ、雇用が守れなくなっている。他方、ネット企業は人を雇わずに広告収入を独占。この結果、多くの人々の収入を減らし、購買力を低下させる方向に「貢献」してしまっている。
ネット企業が納税をしっかり行うか、雇用を増やすかのどちらかで、お金の再分配をしなければ、西ローマ帝国の市民が購買力を低下させた結果、文明を維持できなくなっていったのと似た問題が起きるかもしれない。
新型コロナは、アメリカか中国かが意図的に開発しばらまいたものだ、という陰謀論が根強くあるが、私は仮にその陰謀論が事実であったとしても、敵愾心を煽ることに対し、心配をしている。ローマ帝国崩壊後、ゲルマン民族が部族間で仲が悪かったのもネットワークがズタズタになった要因でもある。
電磁波兵器を持つべきだ、という議論が最近出ているが、愚かにもほどがある。仮に電磁波でインターネットなどの電子機器を破壊した場合、専門分化、分業化の進んだ現代社会では、世界にその悪影響が波及する。それこそ、ローマ帝国崩壊時の兵隊給料なし→武器工房崩壊→原料業崩壊と同じ連鎖が。
人類がある程度の生活水準を維持しながら地球環境を悪化させずに生きていくには、現在のネットワークを大切にし、分散統治と交易のバランスに気をつけ、雇用を作るか納税により利益の再分配を行い、購買力が低下しないようにしながら、環境に負荷をかけない生活スタイルを構築しなければならない。
衝動的な怒りに身を任せない冷静さを人類は保てるか。そのためには、特定の人間だけに利益が集中するのはまずい。もしゲルマン人たちが、皇帝の代わりに各地の兵隊たちに給料を支払っていたら、帝国は滅んでも交易は維持され、生活水準も低下せずに済んだだろう。しかしそうはならなかった。
支配者であるゲルマン人は、ローマ人から税金(やがて貨幣経済もダメになったので、物納による年貢に変わったが)を取り立てればよかったから、ローマ人の兵士に給料を支払う理由が見いだせなかった。しかし、再分配システムを破壊したがためにローマ帝国内のネットワークは崩れ、自給自足社会に。
無料サービスを提供する代わりに広告収入や販売仲介業のかなりを分捕ったネット企業は、雇用や納税をしようとしない限り、再分配システムを破壊したゲルマン人と同じ作用を現代社会にもたらす恐れがある。利益の再分配をしなければ、西ローマ帝国地域が生活水準を大きく低下させたのと同じことになる。