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短編「革命の午後 ――彼女の純粋な動機とその奥底に潜む本当の心」
カフェの窓ガラスから差す昼下がりの日差しは、彼女の前髪の影をその丸い額に落としていた。
ダージリンティーがまだ少し残っている。彼女はティーカップの縁に付いた口紅を、まるで昼寝する猫の額を指で撫でるかのようにさすっていた。
私は眠っている猫を目覚めさせないように、静かに口を開いた。
「どうしたんだい、さっきからだんまりしちゃって。」
「ううん、何でもないわ。」前髪の影が左右に揺れた。
「ただね、、、」
「ただ?」
「こんな穏やかな昼下がりにもどこかで革命は起きているのかなって。」
「革命?」
「ええ、そうよ。革命。」
彼女もまた猫を起こさないようにそう優しく囁いた。
「ねぇ、お母さんに誕生日プレゼントをあげたことがあるでしょう?喜ぶ顔を想像して何をあげたらいいか何日も考えたりして。」
私は何も言わず、話の続きを待った。彼女は窓の外を見るともなく見ていた。
「でもね、その誕生日プレゼントをお母さんに渡したらね、いらないと言われちゃったの。自分で使いなさいって。色々考えて決めたガラスの急須。そんな時、人はどんな気持ちになるかしら。予想しなかった言葉を聞いて、初めはキョトンとするかもしれない。傷ついたかもしれない。でもね、少しづつ、少しづつよ、心の底から怒りが湧いてきたの。せっかく考えて選んだのにって。お母さんの喜ぶ顔を見たかったのにって。」
私はなんて言ったらいいのか分からず、彼女の視線を追いかけた。
「もっと早く気づくべきだったのよ。人は自分の動機の純粋性を信じたがるって。つまり、そのプレゼントを渡した行為の裏には、純粋にお母さんの喜ぶ顔を見たいという動機以外にも、自分も満足したいという心も潜んでいるって事。」
彼女は残っていたダージリンティを覗き込んでいた。
「そうすれば、そんなに傷つかなくて済んだんじゃないかしら。」
「その話は君の事かい?」私は聞いた。
「いいえ、私の事じゃないわ。ただの例え話よ。それで、、、」
「それで?」
「それでその人は、その事にいつ気づくかってことよ。純粋な動機の中に潜み隠れているものに。」
私は続きを待った。
「ねぇ、もしその人がずっとその事に気付かないままでいたら、この先何度も傷つく事になると思わない?」
「あるいはそうかもしれない。」私は短く答えた。
「もし、こんな穏やかな昼下がりに、その人がその純粋な動機の裏に隠されたものに気づいたら、それはその人にとって大きな革命なのよ。きっと。」
それからしばらく二人は無言のまま、昼下がりの日差しに包まれていた。
彼女は残りのダージリンティを飲み干した。その瞳は昼寝から覚めてスッキリした猫のように澄み渡っていた。
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「君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求む。」