濁浪清風 第61回「宿業」について⑨
われらの経験の一切を黙って引き受けていくものを、「阿頼耶識(あらやしき)」と名づけている。一切の経験とは、三界〈さんがい〉(欲界〈よっかい〉・色界〈しきかい〉・無色界〈むしきかい〉)の全経験、すなわち迷妄(めいもう)の晴れない状態での生命現象の一切である。たとえそれが美しい状態、例えば美的経験(音楽や美術など)であっても、抽象的な数学理論を考えるような経験であっても、三界の中に包まれる。仏陀・釈尊が、われらの生存に起こる一切の経験の本質を「一切皆苦」と見抜かれたのは、状況が