「僕が見つけた『生きる』という選択」take3
第二章:入院中の孤独と新たな決意
窓の外に見えるのは、いつもと変わらない田舎町の風景だった。遠くの道路を小さく走る車、街灯の下でかすかに動く人影、そして赤いマクドナルドの看板が見えていた。いつもなら日常の一部として流れていくその光景も、今の僕にはまるで遠い別世界のように感じられた。
病室は静かだった。面会謝絶で、家族とも友人とも顔を合わせることはできない。誰もいないこの場所で、ただベッドに横たわり、日がな一日、漂う静寂と向き合うことしかできなかった。時間が過ぎるごとに、孤独の感覚が胸の中で少しずつ広がっていくのがわかる。そしてその孤独の中で浮かび上がってきたのは、これまでの人生で背負ってきた自分自身の重荷だった。
「自分はこのまま、社会に戻れなくなるかもしれない。」
その考えが頭をよぎるたび、胸がきゅっと締め付けられるように痛んだ。ぼんやりと感じていた不安が現実味を帯び、逃れられないものとして僕の心を支配し始めたのだ。その不安に押しつぶされそうになる自分が情けなく、もがきながらも、僕は日々の生活に少しでも意味を見出そうと試みた。
そしてその手段として始めたのが、日記だった。ペンを手に取って、ただ思うままに言葉を書き出すと、不思議と心の中が少しずつ整理されていくのを感じた。思い返してみれば、僕はこれまでどこかで「強くなければいけない」と思い込み、周囲の助けを求めることを恐れてきた。自分の感情を抑え込むことで、かえって心の奥底に孤独を溜めていたのかもしれない。入院生活でぽっかりと時間が空いた今、僕はその隠れた気持ちと初めて向き合うようになっていった。
それでも、どうしても変えられない「癖」があった。それは、自分の力でなんとかしようとする意地だ。この意地は、いつの間にか「人に迷惑をかけたくない」という思いにまで発展し、次第に自分を苦しめる鎖となっていたのだ。病室にいるのだから、体調が悪くなれば看護師に助けを求めるのが当然だ。しかし、僕の中ではまだ「辛いと口に出すことは弱さ」だと考える部分が残っていた。
ある夜、体調が優れないにもかかわらず、僕はナースコールを押すことをためらい、結局無理をしてトイレに向かった。その結果、途中で倒れ、駆けつけてくれた看護師やスタッフに大きな迷惑をかけてしまった。あの瞬間、ようやく自分が抱えていた「強さ」という鎧の重さに気づいた。誰かに頼ることは恥ずかしいことではない。それが分かった時、僕の心には少しだけ安堵が訪れた。
思いがけず静かな病室の夜に響いたのは、昔のある言葉だった。ラグビーの試合後にコーチが言ってくれた「常に自分と向き合い、目標を持つことが大事だ」というアドバイスだ。思い返せば、僕はその時からただの「強さ」を求めていたのではなく、どこかで誰かと共に生きるための道を探していたのかもしれない。
その後も、毎日届く小さなメッセージや、友人からの「大丈夫?」の一言が、僕の支えになっていった。孤独の中でも、僕は決して一人ではなかったことに気づいたのだ。この一つ一つの言葉が、孤独の病室に小さな灯火をともしてくれた。
自分が本当に生きたいのは、ただ「強さ」に頼る生き方ではない。他者と共に歩み、苦しいときには互いに支え合える、そんな生き方だったのだ。それに気づいた僕は、ここから新しい一歩を踏み出していく準備を、少しずつ整えていった。
今、確かにここにいる自分が感じるのは「変わりたい」という熱意だった。