「僕が見つけた『生きる』という選択」take4
静かな田舎町。高層ビルが立ち並ぶ都会とは違い、一面に広がる緑と季節ごとの色鮮やかな景色の中で、僕の幼少期はゆっくりと流れていた。両親は地域に深く根を張り、誰よりも他人を助け、いつも温かな笑顔で人々に接していた。その影響で、幼いながらも「人に迷惑をかけないこと」「自分の力でなんとかすること」が当たり前の価値観として僕の中に根付いていった。
母は優しさの中に強さを持った人で、僕がどんなに失敗しても決して大声で叱ったりはしなかった。だが、たまに僕が人に甘えようとすると、母は静かにこう言った。「人には迷惑をかけないように、困ったらまずは自分で解決しようね」。その言葉はシンプルだったが、いつしかその考え方が、僕の中に深く刻まれていった。父もまた、地域の信頼を得る人で、町内会の行事や祭りではいつも先頭に立って、裏方で支え続けていた。
(小学校時代:団体行動を学ぶ経験)
小学生の頃、地域で行われる運動会や祭りが僕の大好きなイベントだった。友達と一緒に参加し、みんなと一緒に頑張る瞬間が楽しく、自然と「人のために役立ちたい」という気持ちが芽生えていた。そして、その思いが一層強くなったのは、ある日、地域の運動会でリレーの選手に選ばれた時だった。みんなが僕を応援してくれる姿が嬉しく、いつの間にか「期待に応えたい」という気持ちが心の奥で大きくなっていった。
ところが、いざバトンを受け取った瞬間、緊張で足がもつれ、転倒してしまった。皆が応援してくれている中での失敗は恥ずかしく、悔しく、誰かに助けてほしい気持ちがあふれていたが、母の教えが脳裏をよぎり、「自分で立ち上がらなければ」という思いで、泣きながら立ち上がった。それでも最後まで走り切ったことで、応援してくれたみんなが「よくやった」と声をかけてくれた瞬間、心が軽くなった。この経験が、僕に「自分でなんとかしなければならない」という強い信念を植え付けたように思う。
(ラグビーとの出会い)
その後、僕は成長とともにラグビーというスポーツに出会った。田舎町での生活においてラグビーはあまり馴染みのないスポーツだったが、学校の授業で初めて触れた瞬間に、その魅力に惹かれたのだ。ラグビーは、個人技ではなく、チーム全体の力が試されるスポーツだった。フィールドの中での一瞬一瞬が、全て仲間に依存していて、たとえ一人でも役割を果たさなければ全体が崩れてしまう。その特別な緊張感と、仲間と共に目標に向かう楽しさがたまらなかった。
ラグビーは僕にとって、ただのスポーツ以上の存在になっていった。練習では決して一人ではできないことに挑戦し、みんなが互いに支え合いながら自分の限界を超えていく。「チームのために」という気持ちは強くなるばかりで、いつしか「他人に迷惑をかけず、自分の役割を果たす」という信念が、僕の心の中心に据えられていったのだ。
(中学時代:鬼コーチとの出会いと忍耐力)
中学に進学すると、さらに本格的にラグビーに打ち込むことになった。しかしそこには、厳しい鬼コーチとの出会いが待ち受けていた。彼は、失敗を許さない人物で、練習中に一瞬でも気を抜くと、すぐに鋭い言葉で叱責された。その激しい指導方法に当初は戸惑ったが、やがて彼の厳しさの奥にある愛情や信念に気づくようになった。コーチの目指すものは、僕たちに「自分を信じ、仲間を信じる」ことだったのだ。
一方で、この頃から「他人に頼らない」という考えが一層強固なものとなっていった。チームの仲間が練習で失敗しても、僕は口を出さずに黙々と自分の役割に集中していた。「自分の問題は自分で解決する」という考えが、他人との距離を感じさせる一方で、どこか心の支えでもあったのだ。
(自分の殻に閉じこもり始める)
次第に、自分が掲げる「他人に頼らない」信念が、少しずつ人との距離を生み出していることにも気づき始めた。仲間がケガをしてしまった時も、自分から声をかけることはなく、「大丈夫だろう」と心の中で思っている自分がいた。信念がいつの間にか自分自身を孤立させていたのだ。しかし、そう感じていても、やはり「自分のことは自分で」という考えを捨てることはできなかった。次第に、仲間との距離感が心に重くのしかかるようになっていった。
(一人のチームメイトとの交流が変える価値観)
そんな時、一人のチームメイトが僕に声をかけてくれた。彼は、いつもチームの中でも目立たない存在だったが、僕に「なんでそんなに一人で頑張るの?」と真っ直ぐに問いかけてくれたのだ。その問いに対して、僕は言葉に詰まってしまったが、その時初めて、自分がいつも他人に頼ることを避けてきたことに気づかされた。
そのチームメイトと少しずつ話をするうちに、「他人に頼ることも悪いことじゃない」という考えが芽生え始めた。僕の価値観に少しずつ変化が生まれ、チームとしての活動がこれまで以上に充実して感じられるようになったのだ。