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言語処理の脳内メカニズム

 僕の考えついた言語処理における脳内メカニズム「脳室内免疫細胞ネットワーク仮説」の概要を下図に示してみた。この図をもとに、(i) Bリンパ球(B細胞)、脳脊髄液接触ニューロン(CSF-cN)、マイクログリア(ミクログリア)が成熟して、(ii) ネットワーク端末を構築する段階、つづいて(iii) できあがった免疫細胞ネットワークが、どのようにして経験や評価や総合化を積み重ねて発展するのかの説明を試みる。

 

脳室内免疫細胞ネットワークが言語処理を担当する

(i) 免疫細胞ネットワークの成熟

  すべての言葉の記憶は、後天的に獲得される。どのように獲得されるかは、パブロフの条件反射実験が参考になる。条件反射形成の第一の条件は、記号と意味が時間的に一致して作用すること、第二の条件は記号が意味よりも「いくらか先行しなければならない」ということである。(パブロフ『大脳半球の働きについて - 条件反射学』第2講、岩波文庫)

 つまり言葉も意味も知らないときに、まず「リンゴ」という言葉を聞いて、続いてリンゴを食べると、言葉が意味とむすびつくのだ。このとき脳は、① まだ意味を知らない言葉を聞いて、「何だろう」と興味がそそられる、② 赤くて丸いリンゴの実をきれいだと思い、甘くて香りのよいリンゴを味わう。記憶を作る際、興味をそそられたり、嬉しいとか美味しいとかハッピーな体験が重要である。

 ①と②の結果、「リンゴ」についての「良い体験」ができると、脳にスイッチが入り、③ 3種の細胞に一気に成熟の指示を出す。
 3種の細胞とは、「リンゴ」という音韻刺激が耳に入るとそれを脳室に伝える役目を果たす脳脊髄液接触ニューロン、「リンゴ」に関する体験や思考の記録を蓄え、言葉のネットワーク記憶を管理するBリンパ球、そして、「リンゴ」の味や匂いや色や形など五官の体験記憶を記録して、それにインデックスをつけるマイクログリアである。
 脳脊髄液接触ニューロンとマイクログリアは、「リンゴ」の音韻波形を模した抗原をもち、Bリンパ球はその抗原と特異的に結合する抗体をもつ。


(ii) ヘルパーT細胞が特異的結合の司令塔

 3種の細胞がネットワークするためには、Bリンパ球の受容体(抗体)が、マイクログリアの膜上のインデックス(抗原)と、鍵と鍵穴の関係で特異的に結合する必要がある。全体を調節するための細胞としてヘルパーT細胞が存在し、抗原と抗体が特異的に結合するペアとなるよう調整する司令塔の役割を果たしている。抗原と抗体を生み出すアミノ酸モジュールをそれぞれの細胞に伝えるはたらきをしているのだろう。

 

(iii) ネットワーク記憶の発展

  赤い美味しいリンゴを食べて、「リンゴ」という言葉を覚えた子どもは、「青りんご」や「姫りんご」を食べて、リンゴにいろいろな種類があることを知る。それらは「リンゴ」という集合に含まれるものの、「青」や「姫」という接頭語のついた変わり種であることを認識する。子どもが「リンゴジャム」や「リンゴジュース」を味わうと、「リンゴ」の記憶を司るBリンパ球が「リンゴ」という果物は調理法によって形を変えることを記憶する。

 「林檎」を「リンゴ」と読むことは、Bリンパ球が、文字列の視覚イメージとのネットワーク記憶として記憶する。だから読めるけど書けないことが多々あるのだ。あらかじめ言葉の記憶が脳内にあれば、読むことは実は簡単なのだ。

 「アップル」という言葉は巷にあふれている。アップルティー、アップルパイ、アップル社のロゴ、、、、。アップルパイを食べたおかげで、アップルはリンゴだと知る人もいる。英語の「アップル」と母語の「リンゴ」は、脳内でどのようにネットワークするのか。また「アップル」を言えても「apple」が読めない人もいれば、書けない人もいる。これはどう説明するか。あれやこれやと考えてみるとよい。けっして時間の無駄にはならないだろう。

 寿司ネタの「イクラ」が、ロシア語で「卵」を意味する言葉と知ったとき、妻は「鮭は日本語なのに、その卵だけどうしてロシア語を使うの? ロシアでは目玉焼きの卵もイクラというの?」と僕に聞いてきた。僕は即答できずにいたら、妻はインターネットで検索し、「イクラ」は魚卵を意味するロシア語であり、たらこもキャビアも数の子も「イクラ」であることがわかった。「イクラ」が広まったのは、1900年代で、経緯は諸説あり、なぜ鮭の卵だけ「イクラ」と呼んだのかの決定的な答えは見つからなかった。
 妻のBリンパ球に「イクラ」の記憶ができただろうが、彼女は海産物を好まないので、それ以上のネットワーク記憶には発展しないだろう…


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