私、A
気圧の乱れは私から愛嬌を奪う。
梅雨入りして数日が経った。
梅雨入りの前日は快晴で、アームカバーを付けずに取材をしたため、梅雨入り初日を腕がヒリヒリした状態で迎えた。
まだ腕の日焼けによる肌荒れもおさまらない今日は、とにかく身体がだるい。
西日本の方が特に天気が悪いらしい。大事に至らなければ良いが。
災害も大変だけど、気圧が一人一人の気力と体力を奪うことだって罪深い事だと感じる。
夜、自転車に乗って信号待ちをし、信号が青に変わりペダルを踏み込んだ瞬間、私の前を一人の老婆が歩いて横切った。
ペダルを踏み込む、上体を前に持っていく、そしてブレーキを強くかける、を同時に行ったので、自転車はほぼ動かず、私の頭が前カゴに突っ込むだけでなんとか済んだ。
疲労により私の視野が狭くなっていたのかもしれない。
そしてこの老婆もまた、 視野が狭くなっていたり、信号が変わるタイミングを見ていなかったり、自転車の前を通るとどうなるかの予測がつかなくなっていたのかもしれない。
老婆を迂回して自転車を漕ぎ出すと、老婆はマスクの中で小さく何か文句を言っているようだった。
人と争たくはない。
それなのに老婆を一人怒らせてしまった。
私が罪悪感を背負い気力を失いこのまま何も買わずに家路に着けば、スーパーの売り上げは落ち、店舗の人々は寂しい思いをする。
世の中のたくさんの人が言っているし私もやはり言っている、「自分の機嫌は自分で取ろう」。
最近ハマっている中森明菜さんの「少女A」を、私もマスクの中で小さく歌う。
スーパーに着く頃にはすっかり機嫌を取り戻した私がいた。
老婆Aも、どうか自分で自分の機嫌を取り戻していますように。