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目線を揃える共視的デザイン

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ 第12回(2021年9月27日開催)にて、株式会社fogの大山貴子さんの講演を聴講した記録を残します。

大山さんは、仙台からボストンに留学、サフォーク大にてエルサルバドルでのゲリラ農村留学やウガンダの人道支援や平和構築に従事。ニューヨーク滞在中にPark Slope Food CoopやCommunity Gardenと出会い、帰国後にはヴィーガンカフェの運営を行う。実践していく中でカフェ運営だけでいいのか?という疑問、そして「フードロス」という社会課題の解決をゴールにするとどうしても「分け合う」という話だけになってしまい、もっと根本的な解決の糸口が必要であると考えていたところで「サーキュラーエコノミー(循環経済)」に出会った。その循環経済にもっと取り組んでいかなくてはいけないのではないか?という思いをさまざまなプロジェクトを実践していく中で感じながら、株式会社fogを設立。企業に対してサーキュラリティの意識向上、理解向上のためのコンサルティングを行うと同時に、自らも実践しながらLiving Labとして運営するelab(エラボ)を設立している。

お話を伺っていると人生の紆余曲折があったようだが、とにかく実践的で行動力の塊のような方でした。具体的なプロジェクトの話の中で特に印象に残ったのが市民の声を集めた「うんなんローカルマニフェスト」を作る取り組み。

ここで意識されていたアプローチが、今回の記事のタイトルにもした「目線を揃える共視的デザイン」を行なっているということ。なぜ行動指針を作るところから始めているのか?という背景は上記のWeb記事から引用させていただくと以下の通りとのこと。

6つの町からなる雲南市には30もの地域自主組織が存在し、市民が地域を担う仕組みがあります。しかしこれまで、他地域同士や個人・組織が行っている活動が連携できていない現状がありました。美しく豊かな自然や農作物、古くからの文化や伝統がある雲南市で、それらを遺しつつさらに地域に住む全員が心地よく、持続可能に暮らしていくためには、それぞれが理解し合い連携する必要があります。それにむけて様々な立場からの本音を紐解いていくと、行動・連携しにくい大きな要因の一つは心理的な壁であることが分かりました。それらを踏まえて、市民の声をもとに出来上がったのが「うんなんローカルマニフェスト」です。地元民・Iターン・Uターン問わず、雲南市でこれからも一緒に暮らし続ける人達と、そして企業や行政と、共有したい価値観を10の言葉とイラストで表現しました。誰もが安心して一歩行動できる地域へ変わっていくきっかけとしていきます。

コンサルタントが地域に出かけて行って別の地域でも活用している制作パッケージをフレームワークとして提供するというような、言い方は悪いが「押し付ける」というアプローチでは全くなく、コンサルタントが地域に実際に住んでみて入り込むアプローチをしているのが印象的。そのアプローチのことを大山さんは「溶け込み目線を調整する」という言い方をしていたがこれがいわゆる「共視的デザイン」ということ。これはまさにここ最近に人類学でもホットな話題である「存在論的転回」そのものであると感じた。つまり、観察者が自分たちの価値観に基づくフレームで観察対象を分析するというアプローチではなく、より共創的に同じ目線に立って体験したり考えたりするアプローチが必要なのでは?ということ(と、私は理解している)。

この共視的なアプローチを取ることによって、一緒に考える地域の人たちの主体性が変化したというから面白い。堰を切ったようにどんどん自分たちが秘めていた思いやアイデアが出てきたというのだ。つまり、地域のことは政治家や行政職員とかの誰か別人が考えてくれるもので、自分には直接考える権利も義務もないと言うふうに無意識的に思ってしまっていることを解き放つトリガーを作っているのだと思いました。

この「目線を揃えて共視的デザイン」を行なっていく取り組みは、これからのデザインのトレンドというかスタンダードになっていくと思われるし、多元的デザインを提唱するエスコバーのDesign for the Pluriverseでも、存在論的転回(Ontological Turn)という言い方がされているが、デザインの民主化の議論に通じるものであると思う。

サーキュラーエコノミーのような社会全体の構造を変革していく取り組みについて、現状ではSDGsのようにいわゆる企業のPR活動やサステナビリティを意識した消費者の増加に対応するという「マーケティング」の側面が強くなってしまっているという批判があるが、まさに大山さんが実践されているような、我々市民の一人一人が自分ごととして考える、自分たちの世の中をどうしていきたいのか?というのを単にサーキュラーな社会を押し付けるわけではなく自分たちの言葉や行動を自らデザインして、ローカルにそして共創的に取り組んでいくアプローチが本質的かつ我々が目指していく方向性なんだろうなと改めて感じました。



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