コモンズとしての行政システム
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ 第9回(2021年9月6日開催)は、Code for Japan代表の関治之さんの講演を聴講しましたのでその記録を残します。
関さんは自らを「Civic Hacker」と名乗り、Code for Japanがあまりにも有名ではあるが、ソフトウェア開発企業や9月に発足したデジタル庁のプロジェクトマネージャーとしても働いていらっしゃるマルチプレーヤー。
オープンな技術でより良い社会を作りたいという熱い想い、組織の垣根を超えてつながることでより良い社会を作る。そんなやりたいことに応じて組織を使い分けるという、働き方の未来を体現されている方だと感じた。
今現在45歳の関さんは、10年前の東日本大震災が大きな転機になったと言います。それまでは全く社会課題とかにコミットするということは想像していなかった、Yahooジャパンでエンジニアとして働いていて広告配信システムを作っていたそうです。それが、たまたま東日本大震災の時に、Sinsai.infoというサイトを立ち上げて、震災の情報をみんなで地図上に集めてマッピングしていくというものを震災当日に作り始め、オープンソースソフトウェアを使って、すぐに情報が集まったり、助けてくれる人たちがたくさん集まったというからすごい。
Twitterで呼びかけることで手を挙げてくれた人たちは、一晩で一気に100人以上集まった。そして徐々に増えていって250人くらいが一度も顔を合わせたことがないのに地図上に情報をマッピングしていったということです。「どこそこで配給が始まりました」とか、「交通機関が動き出した」とか、みんなで集めてどんどんデータを入れていった。私自身は、東日本大震災の際は帰宅困難者として会社の床で寝たりしましたが、その時に関さんはすでに動き出していたというから、尋常じゃない瞬発力と行動力だなと感じました。
そして、今回印象に残ったのは「伽藍とバザール」の話。
Wikipediaによると、エリック・レイモンドによって書かれたオープンソースソフトウェア(OSS)のソフトウェア開発方式に関するエッセイおよび書籍の中で出てくるとのことだが、簡単にいうと伽藍とバザールという2つのメタファーを対比しながら、いわゆるトップダウンアプローチとボトムアップアプローチを比較しているというもの。その比較の中で、オープンソースのあり方としてはバザール型の方がいいよねということを言っている。行政システムに当てはめてみると、今現在では、それぞれの自治体が伽藍を組み上げている状態で、これについては、単純に無駄ではないか?という疑問が湧いてくる。そして伽藍モデルの課題は、変化に弱くて一つの組織にノウハウが溜まる、利用者側は手を出せないということ。
そこで、行政システムを、バザールモデルに適用できないだろうか?いろんな人が参加してよくしていくというボトムアップの活動にできないか。自治体間でも共有してエコシステムを作れないか?オープンソースのコミュニティになることでいろんな人がいろんなチャレンジをしてうまくいった地域が参照されていくようなスタイルを目指したのが、Code for Japanのコミュニティを作ることにつながったということ。
ともに考え、ともに作る社会
一緒に考え、作ることができる環境を整備し、一緒に手を動かして、ともに作っていく。自治体を作り直すというか、状況に合わせて形を変えていく。作る人と利用する人という二元論ではなく、誰もがデザイナーとして作る側として参加していく。そんなボトムアップの活動をムーブメントとして巻き起こしているところがすごい。特に、行政システムについては、社会の共有財であるべきというところには共感した。コモンズとしてデジタルシステムを捉え、参加型でどんどん進化させていく。誰かが独占するものではなく、誰かがあたえ、与えられるものではなく、共に作り、新陳代謝を伴いながら進化させていく。それをとにかく言うだけじゃなくて行動しながらムーブメントになっているのが本当にすごい。今回もいい刺激をいただきました。