コトバが社会をデザインする
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論Ⅱ 第13回(2021年10月4日開催)にて、博報堂の新規事業開発部門である、ミライの事業室室長の吉澤到さんの講演を聴講した記録を残します。
吉澤さんは、1996年に博報堂に入社し、コピーライター、クリエイティブディレクターとして20年以上にわたり国内外の大手企業のマーケティング戦略、ブランディング、ビジョン策定などに従事。その後42歳の時にロンドンビジネススクールの世界中のエグゼクティブが多く集まる(22カ国60名だったとか)MBAを取得、その後に博報堂内にミライの事業室の立ち上げ、室長に就任されている。
コピーライターとしてキャリアをスタートされたということであったが、講演の中でも特にその「コピーライターの仕事の幅広さ」がとても印象的でした。私ははっきり言ってコピーライターの仕事の範囲を誤解していて、キャッチコピーを考える仕事だけだというイメージがあったのだが、吉澤さん曰く、コピーライターの仕事とは「広告会社が関係するありとあらゆる言葉まわりに責任を持つ」役割だという。キャッチコピーのみならず、その説明文章、企業のビジョン、ステートメント、ナレーション、ネーミング、スピーチ原稿、PR原稿など、とにかく言葉に関係するものにはコピーライターが責任を持っているそうだ。
そして、そのコピーライターとして認められるためには、Tokyo Copywriters Clubという略してTCCの新人賞を取るのが登竜門だという。40歳になって初めて新人賞を取る人もいるようだから、新人って?という疑問が湧くがとても狭き門なのだということが伝わってきた。
そして、吉澤さん曰く、そのコピーとは経営そのものであるという。
経営者の思いを伝えたり、意味を与える(パーパス)、進むべき方向を示したり、感情に訴え人を行動させる。さらに現場に創意工夫をさせるための絶妙な余白というか解釈の幅を持たせるワードを選ぶこと、さらには経営に一貫性を与えるという。とても短い、シンプルなワード、センテンスに全てをこめる。とてもクリエイティブな仕事だなと。
講演の中でも紹介されたが、ファーストリテイリングのステートメントである「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というのは柳井さんが常日頃実践しているということであるが、まさに経営そのものというか会社の存在意義をシンプルなセンテンスで表したとても秀逸なコピーだと感じた。
特にダイバーシティーが強さの源泉となる組織において、組織に所属している人々をはじめとするステークホルダーがその組織の存在を理解するための共通のステートメントはとても大事であり、パワーを持つものであると感じた。そして、このワードやセンテンスの言葉の選び方、使い方をひとつ間違えるだけで運命が大きく変わるというか、組織そのもの、つまりそれは社会そのものをデザインしているということなんだなと、コピーライターの重要性を改めて感じさせられた。