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苦手だったワンピース


ワンピースが苦手。

女の子らしくて、ふんわりしてて、触ったら飛んでいってしまいそうだし。

なにより、自分にはあまり似合わないような気がしてた。

2年前、その当時付き合ってた彼氏がいて、初めてのデートの約束をした。

よく晴れてて、気温もちょうど良い秋頃だった。

前日の夜、鏡の前で小さなファッションショーをした。あれこれ着替えてみては、違うなあ、と繰り返して

その時に、タンスの奥にしまっていたワンピースを取り出した。

久しぶりに着てみたら、なんか似合ってるように見えた。その日のわたしは明日が来るのが楽しみで、ちょっと有頂天だったから。

次の日の朝、いつもよりも早起きして、カーキ色に白い花が描かれてる可愛らしいワンピースを着て、いつもより丁寧に化粧して、いつもより可愛いアクセサリーをつけた。

待ち合わせ場所には10分前に着いた。

トイレに寄って、口紅がとれてないか確認した。
首筋と手首にお気に入りの香水をつけて、髪型を整えて、待ち合わせ場所に行った。

沢山の人がそれぞれ相手を待っている中にわたしも混ざって、彼のことを待っていた。

待ち合わせ時間になっても、彼は来なかった。電車が遅れてるのかな、くらいに思っていた。

10分たっても来ない。

30分たっても来なかった。

連絡しても返事がないので、わたしはそこで待つしかなかった。

わたしが来た頃に待ち合わせしていた人たちは居なくなっていて、また新しい人が待ち合わせにやって来ては、数分で相手と合流し、並んで歩いて行ってしまう。

そんな光景を見ながら、1時間と少しくらい待ったと思う。

それくらいの時間に、彼から連絡が入った。

それは、ごめんとか、もう少しで着くとか、そういう内容じゃなかった。

「今日行けなくなった。」

あの時あの場所で待ち合わせしていた人たちの中で、相手が来なかったのはわたしだけだったと思う。

当時のわたしは、彼に嫌われたくなくて、物わかりのいい女でいたかった。

だから

「そっか、わかった。気にしないで」

とか、そんなようなことを返したと思う。

それから家に帰って、手を洗って、アクセサリーを外して、化粧を落とした。

悲しかったけど、何が悲しかったのかもわからなかった。

デートをすっぽかされたことか、ごめんの一言もなかったことか、私だけ待ち人が来なかったことに対する虚しさか。

私のワンピースが寂しいって言っていた。

嫌いだったワンピースを見つめながら、泣いた記憶だけがある。

当時の私は、彼のことが本当に好きだった。

だからこのワンピースと一緒に、かわいいねってほめてほしかった。

私が流したのは、自分だけ舞い上がっていたことに対しての悔し涙だったかもしれない。

またワンピースはタンスの奥にしまわれることになってしまった。

やっぱり好きにはなれなかった。

でも、嫌いにもなれなかった。


女の子の気持ちを勝手に有頂天にしてくれる、かわいらしいワンピースが苦手だ。

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