目指せ出版! 日本史のセンセイと行く全国制覇の旅15 興福寺と元興寺
七大寺2つ目の興福寺と言えば、思い出すのが芥川龍之介の「竜」という作品。初めて訪ねて猿沢池と五重塔を見たときに「ここが『竜』の舞台かぁ」と感慨深かったことを覚えています。興福寺を見学する前にはぜひ読んでほしい作品。「鼻」という作品を先に読んでから「竜」を読むと面白さが増しますよ(「鼻」も「竜」も岩波文庫に入っています。別々の本なので2冊買ってね)。
「菊の香や 奈良には古き 仏たち」と詠んだのは松尾芭蕉。この俳句にピッタリなほど、興福寺にも多くの仏像があります。東大寺も火事にあっていますが、興福寺はそれ以上の回数、火事に襲われています。興福寺は藤原氏の氏寺ということもあり、そのたびに文化財を守り復興を遂げてきました。所有する国宝の数なんと27件! 特に有名な国宝の仏像は、「興福寺国宝館」に所蔵されていて、見たことのあるあの仏像もこの仏像もいっぺんに見られるんです。
最も有名なのは、日本で一番人気のある仏像・阿修羅像ではないでしょうか(像高153cm、脱乾漆像)。3つの顔はそれぞれ微妙に表情が異なっていて、右側の顔が幼年期、左側が思春期、正面の顔が青年期の顔だ、という説もあります。確かに右側の顔は何となく幼い表情に見えるので、自分の目で確かめてください。
有名な仏像はまだほかにもありますよ。天燈鬼(てんとうき)・竜燈鬼(りゅうとうき)立像は仏さまに供える灯明(とうみょう、光のこと)のための仏像。阿吽(あうん)一対の怖い鬼なのに、どこかにくめないユーモラスな仏像です。つづいては国宝館では見られず、春と秋の特別開帳の時だけ見られるのが無著(むちゃく)・世親(せしん)像。運慶が制作したインドの僧をモデルにした像なんだけれど、彫刻であることを忘れてしまうくらい、まさに人間の顔をしている。あまりにリアルで怖くなってしまいそうなほどです。この他にも多くの仏像が国宝に指定されていて、しっかりと見るには半日以上かかってしまう興福寺の仏像たち。必見です。
興福寺のもう一つの見どころと言えば五重塔。日光東照宮のところでも紹介したように、江戸時代以前に造られて現存している五重塔は全部で22ある。その中でも国宝に指定されているのは11,興福寺五重塔は2番目に高い塔になっています。五重塔は廃仏毀釈(はいぶつきしゃく、明治時代の初めに行われた,過激な仏教廃止運動のこと。神仏分離令が出されて,神社から仏教的なものが排除された)のときに売りに出され、焼却して金具を回収しようとしたところで、付近の住民が「延焼の恐れがある」と反対して破壊を免れたのだそう。当時の名もなき人々に感謝ですね。令和13年までは修築工事が行われていますが、新しくきれいになった五重塔の姿が見られる日まで楽しみに待ちましょう。
【最古の瓦・元興寺】
興福寺から歩いて10分弱で到着する七大寺の3番目が元興寺です。この寺は蘇我馬子が飛鳥に建てた法興寺という寺が、平城京が造られるときに移ってきた寺で、当時は東大寺・興福寺と同じような巨大な寺院だったそうです。そのころには元興寺にも五重塔があって、それを模したおよそ5mの縮小版五重塔が残っています(11の国宝五重塔のうちの一つ。たった5mだけれど「建築物」として指定されているよ)。この五重塔は内部まで省略せずに五重塔をそのまま模してあるので、奈良時代にどのように五重塔が造られていたのかを知る貴重な史料となっています。また奈良時代のもの、と言えばこの元興寺の瓦の一部は、創建当時のものが今でも使われています。小さなお寺ではありますが、見どころいっぱいで世界遺産にも指定されています。
ちなみに飛鳥の法興寺は飛鳥寺と名前を変えて、現在でも多くの人が訪れています。この寺が有名なのは、日本最古の仏像と言われる飛鳥大仏があるからでしょう。この大仏は文化財にしては珍しく自由に写真を撮ることができます。何度も火災の被害にあって、そのたびに修復してきたようですが、どこの部分が当時のものかにはいろいろな説があって、研究が進められているところです。
なお興福寺から元興寺に歩いて行くまでにある有名なお店が中谷堂さん。テレビで見たことのある人もいるかもしれないな。ここのよもぎ餅、とてもおいしいのでぜひトライしてみてください(1個180円だったと思います)。
https://www.youtube.com/watch?v=zjB4PPgBtSo