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餅 bing の想い出

私にとって初めての海外は、大学3年生の夏休みに短期留学先として滞在した上海でした。昔から海外ホームステイという言葉に憧れがあった私は当時、上海の一般家庭に滞在できる留学プログラムに申し込みました。

ホームステイなので当然、食事はご家族と一緒にいただきます。お昼は学校で食べていましたが、朝と夜は基本、そのご家庭で食べました。

私が食事で一番カルチャーショックを受けたのは、朝ごはんです。私自身の家庭はと言えば、専業主婦の母親がご飯と味噌汁の和食の朝ごはんを作るのが定番でした。時に目玉焼き、時に焼き魚が用意され、前日の夕飯の残り物や、納豆、お漬物が幾つかのお皿で出されるような、そんな食卓でした。

上海で迎える朝は毎日、その日の朝に外で買ってきた肉まんであったり、もち米で作られたおまんじゅうのようなものであったり、作りたてのものがビニール袋に入ったままの状態で、「今日の朝ごはんよ」と渡されました。

何と、シンプル。幾つものお椀や小鉢や小皿なんていらないわけです。ただ、テーブルにぽんとビニール袋と飲み物が置かれる、そのシンプルさ。お箸さえいらない。そして味わう出来立てのその美味しさ。

朝ごはんってこんなにシンプルでいいんだ!洗い物だって全くいらない。それが自分の家庭の朝ごはんが当たり前になっていた当時の私には、目から鱗でした。そして毎日毎日、異なる種類の朝ごはんをご両親は外で買ってきてくれました。

ある時、ホームステイ先のお母さんが、「今までここで食べた朝ごはんでどれが1番好き?」と私に聞きました。私は迷わず「餅 bing」と答えました。いわゆる小麦粉を薄く丸く焼いた状態のものです。私がいただいたネギが入っているシンプルなそれは一般的に「葱油餅」と呼ばれるものだったと思いますが、そのお母さんは、私に「餅 bing」て言うのよ、と教えてくれました。パリッパリで油のジュワッと感があって、でも軽い。何枚でも胃に収まりそうな、あの感じ。1番好きでした。

そのご家庭の家庭料理はいつも美味しかったし、お父さんもお母さんも料理が上手でした。餃子の包み方を教えてもらったりもしました。高級レストランに連れて行ってもらったこともあります。でも今でも当時の味として真っ先に想い出すのはあの朝ごはんの「餅 bing」の味。朝ごはんに文化の違いを感じたあの感情とともに想い出します。

今や日本のスーパーでも冷凍の「葱油餅」が買えますし、中華街などで出来立てを食べることだって出来ます。

でも現地で味わった味というものは、その当時の感情と相まって、やはり忘れられないものです。

あー、次はいつ行って、あの味を味わえるかな。



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