誰都不是薬神
2018年、邦画では『カメラを止めるな!』が話題を呼びました。
ゾンビ映画は決して得意ではない私にとって、映画の序盤は何度も目を背け、耳を塞ぎそうになりました。でも結果、なるほど最後まで観て良かったと思える、まさに「観るのを止めるな!」な映画でした。
そして同じく、私が観て良かったと心から思う2018年の中国映画が『我不是薬神』です。2018年7月5日に中国で公開されました。
監督の文牧野氏は1985年生まれで、「カメラをを止めるな!」の監督、上田慎一郎氏と同世代です。国を問わず、活躍が目覚ましい世代と言うことでしょうか。
「我不是薬神」は社会派のストーリーです。自身の店の賃貸料も払えないほど商売はふるわず、家庭にも問題を抱える主人公が、金儲けの目的から白血病患者の為の非正規の薬の密輸を始めます。
数年前の中国で実際に起こった事件が元になっており、主人公のモデルとなったのは陸勇と言う人物です。
当時、白血病の正規の治療薬は高額すぎて手に入れることが出来ない患者が数多く存在しました。映画の主人公の程勇は、違法な方法で彼らに非正規の、しかしながら正規品と同じ効能を持つ廉価な薬をインドから手に入れ、販売します。病を患いながらも薬が手に入らず治療すらままならない人たちが如何に沢山いるか、正規の高額な薬代がどれほど生活を逼迫させるか、その貧困の現実に胸が痛みます。
そして生活苦に苦しんでいるのは、程勇もまた同様でした。稼ぎは悪く、病気の父親の手術代の工面に苦慮し、離婚した妻との間の息子を引き取り養っていける余裕もない状況下で、密輸に手を出します。程勇を手伝う仲間たちも皆それぞれの苦悩を抱え、ただ懸命に毎日を生きる人たちです。
安価な薬を手に入れることで命を救われた人たちにとって程勇は「薬神」、文字通り薬の神と崇められたかもしれませんが、結局違法な手段には警察が嗅ぎつきますし、決して万能な神にはなり得ません。
しかしながら、初めは苦しむ人たちの命を救いたいという高い志ではなく、ただの金儲けが目的で薬を売り始めた彼の考え方や行動は、次第に変わっていきます。仲間たちや患者たちを想う彼の気持ちが、映画の重たいテーマに希望を与えてくれます。
正しい道を歩みたくても、間違った手段しか選択肢として与えられなかったとしたら?それでもその道を進むことはやはり罪なのでしょうか。
程勇と彼の仲間、黄毛との絆が描かれるシーン、最後に程勇を待ち受ける予想外のシーンで2度泣けました。
今現在、白血病治療薬の問題は改善されています。
貧困問題、医療体制の在り方、私たちに向き合うことを促す問題を描くと同時に、今日を生きるのに精一杯の人たちへの温かな眼差しが向けられています。その温かさが観る人の心に最後まで寄り添ってくれます。