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ゲーム実況Part1

ゲーム狂いの悪友は数ヶ月前からYouTubeに動画を投稿している。口が悪くて態度もデカい。でもエイムが抜群にいいので、流行りのFPSやTPSのスーパープレイ集と短い解説動画を立て続けに投稿すると、すぐ右肩上がりにフォロワーが増えていった。賛否両論ありつつも、歯に衣着せぬ物言いがわりと人気の秘訣らしい。友人は言う。

「この、ここの箇所をマーカーみたいに囲って矢印つけたいんだけど、クソみたいにムズい。ワケワカラン」

動画の編集画面の一コマを示しつつ、忌々しげに彼は愚痴る。わりと器用な奴にしては珍しく結局別の、字幕で解説を補足するという方法で、最終的には編集することにしたという。

動画編集なぁ……。

まぁ俺には関係のない話だ。あいつみたいに特技もない。要するに、発信しようにも元ネタがないし、確かにムズそうだ。

そんな自分がひょんなことから、動画を投稿してみようということになった。

個人的に好きでよくダラダラと楽しく再生しているノベル系のゲーム実況の真似事だ。経緯としては、とある作品のストーリーに感銘を受けすぎて、しかも読み物系なのにネタバレ実況OKとのことだったので、従順なオタクである俺は布教活動の一貫として、動画を取り始めることにしたのだ。

3周くらいプレイしたものを、さも初見かのように偽りつつ、スタート。

流石にやり込んだ作品なので、脳内脚本はそれなりに仕上がってる。いいところで驚いて、いい具合に伏線を拾う発言も忘れない。もしもの場合を考慮して、収益化にちょうどいいらしい尺の長さで録画しておいた。で、編集ソフトに取り込んで、いざ再生してみる。

(俺の声、きめぇ……。)

ちょっと絶望したので、人生で始めてiPhoneの録音ツールを使って発声の練習を始める。声を作るにはちょっと鼻にかけること、ひとつひとつ言葉を丁寧めに話すこと、かつ、変に思考し過ぎず、友達と話すみたいに気軽なノリで進めること、が大事なんじゃないかと俺は自分なりに考えて自分なりに頑張った。何度も自分の声を録音しては再生し、再生しては消し、消してはちょっと声色を変えて録音し、で、録音し終わってはまた再生する……を延々と繰り返す。

(俺、やってることが純粋にきめぇ……)

冷静になっちゃオシマイだ。ここはキラキライケメンイラストアイコンのイケボ実況者を気取って、まずは自分自身を騙していくのが正しい……。

それから、まだ比較的マシボイス(当社比)で取り直した動画を、ちまちま調べつつカット編集したり音楽をつけたりして切り貼り工作していく。無料ソフトと今のスキルじゃあ出来ることに限界はあるも、俺はそこそこに動画を仕上げていく。挿入する文字のフォントをどれにするのかという問題は意外と奥深い。ちょっと縁取りを入れたり配置をズラしたりするだけで、どこかで見たことありそうなこなれたテロップが出来上がった。

「いやー、何か結構楽しいんだよな。編集」

と悪友にしみじみ語ると、奴は「マジ?」とやや引き気味で反論してくる。映画のエンドロールみたく使用機材名を並び立ててみたり、異様に美しいBGMを添えてみたり、暗転の長さをしつこく調整したり。それら全ては奴曰く「いや、本質じゃないだろ」なんだと。で、案の定仕上がった動画を一番にお披露目した時も散々な言い様。この無駄オシャレぶった演出は無駄だとか、トークつまらんだとか、そのわりに攻略動画みたいな有益情報もなく視聴するメリットがないだとか、俺ならパート2は見ないだとか、そもそもこういう系のゲームマジ興味ないだとか、ぶん殴るぞという程に様々な酷評を頂戴した。や、分かってるからいいんだけどさ。俺の自己満みたいな動画だし。自己満みたいな動画だけども。ちょっとくらい褒めろやと俺は軽くキレた。デリカシーなさ過ぎか。まぁいいけども。奴も奴で適当に「まー頑張ったんじゃん?」と奴なりに絞り出したお世辞で、最終的には俺の初作品に対して労いの言葉を投げかけてくれたわけだし。

で、案の定。投稿してみたものの、再生数は伸びませんでした、と。

開く度、2再生くらい地味に伸びてるのが逆に奇妙だったんだけど、よくよく思えば、パソコンとスマホでアカウントが同期してないせいなんじゃないかと俺は今、名推理している。Twitter経由で動画確認して開く度、増えてる感じだし……。

この世界で、多分俺と、ついでにあのクソ野郎しか知らないであろう零細実況動画は、今日もそんな感じで世界の片隅で再生されるその時を待っている。

当然といえば当然の走り出しなのだが、意外と悪くなかったかもな、と実は自分では満足している。

まるで知るよしもなかったんだが、俺は実はこういう編集みたいな作業が好きなのかもしれない。

あんなに動画を出してるプチ人気実況者様(友人)があんなにも大嫌いだという編集という作業が、なんかよく分からんがいちいち楽しいのだ。これはこれで一つの天性、あるいは才能なんでは?

なーんて。生意気にも3Dグラフィックの作成方法みたいな背伸びし過ぎなハウツー動画なんかを早速再生しつつ、俺は早くもクリエイターとしての将来を夢見たりなんかしちゃったり。いいじゃん、若者は大志を抱くぜ。

パート2動画をまた編集しつつ、俺は最強カッコいい俺の未来予想図を好き放題に思い描いた。

「にしても……この動画マジでつまんねーな(笑)」

思わず編集作業も滞る程のアレな素材(自分のプレイ動画)に、我ながらもはや笑いが禁じ得ない。

これは総再生数20を誇る処女作の、更なる上をいくかもしれん。


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