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2023-2024年最高の漫才/マシンガンズとトムブラウン

2023年上半期に一番笑った漫才はTHE SECONDのマシンガンズだった。勝ち上がって二本目の漫才で印刷した紙を持って読み上げてからは夢中だった。西堀の「もうネタねぇよ〜」という嘆きに身を捩って笑った。ネタはスカスカだしちょくちょく外すし、やたら緊張感があってテンポも悪い。賞レースとはとても思えない出来だった。これが寄席なら金返せと帰る人もいるかもしれないぐらい。でも二人の人間性がギラギラに光った素晴らしい漫才で涙を流して笑った。皆がきっちりネタを叩いて立つ舞台を人間性とアドリブだけで乗り切ろうとした二人がおかしくてしょうがなかった。


2023年下半期に一番笑った漫才はM-1グランプリ敗者復活のトムブラウンだった。トムブラウンのネタには様々な禁忌と美しい規律が混在する。彼らの狂気は規律に縛られることで初めてネタに昇華される。見慣れていたはずの彼らの狂気がさらに狂っていた。常軌を逸した面白さで、とても自由な漫才だった。

M-1グランプリの予選動画がYoutubeで配信されるようになり数多くの漫才を見られるようになったが、ほとんどの漫才は形に縛られていて不自由に見える。

例えば漫才コントに入る際の「俺が〇〇やるからお前は〇〇やってよ」。すごく無駄な時間で、一気に気持ちが冷めてしまう。この無駄な時間をどう省くか考えたコンビのネタは細部まで整っている。一番の答えを出したのはサンドウィッチマンだ。「ピザ屋に行くのって興奮するよな」たった一言でコントが始まる。

例えば漫才終わりの「もうええわ」。手紙を敬具で締めるマナーのように皆が同じ言葉を用いる。手紙を書くならマナー通りでいいが、笑いにならないマナーなら漫才師が守る必要はない。さまざまな漫才師がもうええわに対する答えを提示してきたが、1番の答えを出したのはとろサーモンだと思う。「もうええわ」「続行」その言葉で漫才が再開し、自由に喋り出す久保田に夢中になる。

既存の漫才の形式に対する疑問を持ち、その疑問を解消するネタに個性が宿ると信じている。既存の漫才をフリにして、どれだけ漫才を壊して見せるかが後期M-1グランプリの裏テーマの一つだったと思う。

後期M-1グランプリで正統派漫才師が勝ちきれなかった理由は、漫才という枠組みの中で戦うのが窮屈に見えたからだと思う。それに対して、チャンピオンたちは既存の枠組みを破壊し自由な笑いを作ってきた。その姿に閉塞感を打破して新たな時代を創るスター性を見出してきたのだ。


2024年に一番笑ったのはM-1グランプリ決勝のトムブラウンの漫才だった。漫才中、お腹を抱えて悶絶しながら笑い通した。苦しいぐらい笑った。

あのネタには分析も何もない。ただ全ての漫才コントを、全ての漫才を破壊した。漫才の禁忌をことごとく破り、それを彼らなりの規律でネタにまとめあげた。あれ以上の爆笑と狂気を4分間に込めることなど今後不可能だろうと思う。トムブラウンがM-1グランプリをぶっ壊したのだ。これから全ての漫才師があのネタに大なり小なり影響を受けてネタづくりをするだろう。漫才はもっと自由でいい。もっと自由で破壊的に面白い漫才が見たい。

2025年もお笑いが楽しみです!

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