人の金メダルかじっ太郎
むかしむかし、あるところに、人の金メダルをかじるのが大好きな金メダルかじっ太郎という男がおりました。
誰かが何かの大会で優勝したと聞けば、その家まで行き、勝手に金メダルをかじったそうです。男はかじ太郎と呼ばれ、村の人々から疎まれておりました。
ある日かじ太郎は、隣村の水泳選手が金メダルを取ったと耳にしました。かじ太郎は早速街を出ます。
♪かじってかじってかじってなんぼ
♪かじってなんぼの商売や〜
おしりかじり虫の鼻歌を歌いながら隣村を目指します。
そして隣村に着くやいなや、キラリと光るものを見つけました。金メダルです。
「はやく金メダルをかじりたいな」
かじ太郎は金メダルをとった水泳選手に声をかけました。
「この度は金メダル獲得、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
かじ太郎は揉み手をしながら、選手のご機嫌を伺います。
「その金メダル、ちょっと触らせてもらえませんか?」
選手もこのように頼まれることが多いので、慣れっこです。
「良いですよ、どうぞ」
手渡された金メダルにがぶり、かじ太郎は噛み付きました。
「うげ」
選手は顔をしかめます。
しかしかじ太郎、金メダルをかじれたので大満足です。
「どうもありがとうございます。また頑張ってください」
そう言って隣村を出ました。
「もう二度と来るな」
村人たちの声はかじ太郎の耳には入りません。
今度は、北の方の村で柔道選手が金メダルを取ったそうです。かじ太郎はすぐにその村へ行き、柔道選手に話しかけます。
「その金メダル、ちょっと触らせてもらえませんか?」
柔道選手は頷き、爽やかな笑顔でその金メダルを渡します。その金メダルをがぶり、かじ太郎がかじりました。
「何をするんだ」
柔道選手は怒り、かじ太郎をぶん投げました。
かじ太郎はピューッと放物線を描いて飛び、べたんと地面に叩きつけられました。三ヶ月の入院に及ぶ大怪我を負いました。しかしかじ太郎、金メダルをかじれたので大満足です。
「これからもどんどん、金メダルをかじるぞ」
かじ太郎は以前にも増して金メダルをかじるようになりました。
困った村人たちは、かじ太郎に金メダルをかじる理由を尋ねます。
「なあ、どうしてそんなことするんだい?」
村人に囲まれたかじ太郎は体をよじって、ボソボソと答えました。
「だって、おれにはみんなみたいに金メダルを取る力がないから」
村人たちはみんなで集まって、相談をしました。かじ太郎が人の金メダルを噛まないようにするには、どうしたら良いだろう。
「かじ太郎に、何か金メダルをあげたらどうだろう」
村人の誰かがそう提案し、皆が賛成しました。
ある日、かじ太郎は村長に呼び出され、村の広場にやって来ました。するとそこには大勢の村人がいます。
「かじ太郎殿。この度は、人の金メダルかじり大会、優勝おめでとう」
村長が金メダルを渡してくれました。かじ太郎はびっくりします。だって、そんな大会があったなんて知らなかったから。けれど、そんな大会があるなら、優勝はかじ太郎で決まりです。
村の人々が目一杯の笑顔でお祝いをしてくれました。
「おめでとう、かじ太郎!」
「よく似合うぞ、金メダル!」
かじ太郎は嬉しくなって、その金メダルをかじりました。
自分でとった金メダルは、なによりも格別な味がします。
それからかじ太郎は、その金メダルをいつまでもかじり続け、他のメダリストに迷惑をかけることはなくなったそうです。
めでたし、めでたし。