夢。
夢を見た。
古い友人であるYさんは、永田町に住んでいる。
永田町というのは日本の皇居に接しており、
地理的にも東京の中心と呼ばれてしかるべき場所にある。
要は、一般人が本来住むような街ではないのだが、
彼はここに風変わりなマンションを借りて長いこと住んでいるのだ。
「ここに住んでもうずいぶん経つけどね、すごく気に入ってるよ」
Yさんは言う。
久しぶりに訪れたYさんのマンションはあまりにもクールで、
住まいというよりもまるで…まるで…何だろう?
Yさんの部屋は地下にある。
すべての壁がひんやりとした御影石で作られていて無駄なものがない。
さらに密閉性は抜群らしく外界の雑音が遮断され非常に静かなのである。
あまりに静かだと、人は時間の感覚まで閉ざされたように感じるらしい。
埃ひとつない白い床。
インカの石組みのごとくに剃刀の刃も入らない、
つるつるとした精緻な石壁。
Yさんはここにこれからも住み続けるという。
確かにYさんの職場は丸の内にあり、
「地上」に出るだけですぐに出勤でき、利便性はこの上ない。
少々の不気味さを気にしないとするならば、
これほど理想的な住まいもない、というわけだ。
そうだ、わかった。
Yさんの部屋は僕に太古から続く石室を連想させるのだ。
石室とはつまり、墓である。
僕は廊下から窓の外を見下ろした。
Yさんの部屋のさらに1フロアー下には大きな通路がある。
通路の先には5メートルはあるだろう、
巨大な青銅の扉が道を塞いでいる。
すると、遠くから小さく笙や篳篥の音が響いてきた。
どん、どん、と太鼓の音もする。
「なんだろう?」
「ああ、時々来るんだ。祭典の儀だよ」
「祭典の儀?」
「ほら、ここは場所が場所だからさ」
そうだった。
Yさんのマンションは皇居のすぐ近くだったのだ。
「ほら、見えてきたぞ。あれだよ」
金色の光につつまれて、
見下ろす道に烏帽子と白装束の一団がゆっくりと現れた。
さっきの青銅の扉のほうへ向かっている。
なるほど、扉はそういうことか。
行列の真ん中あたりに神輿のような物が見えてきた。
どうやら光源はそこのようだった。
僕は息を飲む。
しかしYさんは珍しくもないという顔で着替え始め、
この後に予定している飲み会へと行く準備を始めていた。