結婚式ゾンビ

 結婚前夜にゾンビに襲われ不幸にもゾンビになってしまった私だったが、結婚式への未練が強すぎたらしく、私としての自我を保ったまま暮らしていた。そこへゾンビと化した婚約者が現れた。彼もまた強い未練によって自我を保ったままだった。互いの腐肉が落ちるのを気にも止めず私達は抱擁し、顎がずれる程キスをした。「今からでも式を挙げよう!」元牧師のゾンビが祝詞を唱え、その場のゾンビ一同で讃美歌を斉唱する。辺りに神々しい光が満ちてきたところで初めて、これはまずい状況では?と気がついた。事実、歌声に混じって仲間達の悲鳴が聞こえ、婚約者の彼を見れば穏やかな顔で光の中に溶けかけている。一瞬後悔したものの、優しい声で名を呼ばれ、これで良かったんだと私も目を閉じる。急拵えの結婚証明書には、サインの代わりに書き置きを遺した。
 偶然にもこれを読んだ貴方。結婚式だけは、ゾンビになる前に済ませておいた方がいい。

 そんなに悪い最期でもなかったけど。

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