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君はいつも、読んでくれてありがとうと書く。

こっそりと台所に忍び込んで、その小さな両手で包丁を握る。次の瞬間なぜか涙が溢れ出す。何も悲しくなんてないのに。涙は止まるどころか嗚咽さえ洩れていく。彼女は包丁を置いてその場から逃げる様に去った。やっぱり死ぬのは怖かったんだろうか。

自転車に乗ったまま目を瞑って交差点を渡る。誰か弾いてくれないかなって。これで何回目だろう。彼は今日も誰もいないアパートに帰る。

死にたいと言っている人は本当に死にたいわけではないんだと先生が言っていた。他に道がなくて、この苦しみから逃れるための手段が死ぬこと以外考えられなくて、だから死を選ぶしかない。死にたいんじゃなくて、救われたいから、楽になりたいから、だから死ぬしかない。救済のための死。

もう2年も前の話。彼女は送られてきたメールを何度も何度も読み返して、そしてやっと書いた。これはその一部。


もうひとつのメール貰って読んで、私が思ったこと、考えたこと、書くので、もし読みたくなかったらここで閉じて貰っても全然大丈夫です。
無理はしないで欲しいです。

 ちゃんがもし、自殺したとして、私はそれを ちゃんの、 ちゃん自身の選択として尊重できるのか、考えました。
なんか、多分会ったのも小さい時だったからどんな話したとか一緒にどんなことしたとか、全然覚えてないけど、なのに、 ちゃんの死にたいって意志を差し置いて、私は私の意思で ちゃんに死んで欲しくないと思っているな、という結論に至りました。
めちゃくちゃおこがましいし差し出がましいし、よく知りもしないのに、実際見てた訳でもないのに、人の人生に口出すの最悪って思うし、私が自殺したくなったら人の意見とかどうでも良くて自分のしたいように自殺するんだろうなって思うし、そこに口出しは余計だし要らないし、、私すごい余計なことしてるんじゃないのって今でもすごい思うんだけど、でも、それでも私は私として、それが良いとか悪いとかじゃなくて、善とか悪じゃなくて、私自身の意思として、 ちゃんに死んで欲しくないと思ったの。
 ちゃんとまた会ってお話したいなって思うの。
小さい頃会って遊んでもらって、具体的にどんなことしたとかはもう覚えてないけど、でも、いつもすごい優しくて、ふわふわした雰囲気のきれいなお姉さんで、大好きだったのは覚えてるの。
今でも自分の体調悪くてすごくしんどいはずなのに私を気にかけてくれて、メールもくれて、やり取りしてくれて、本当に嬉しいし大好きです。

これはただの私の思いだから、 ちゃんは ちゃんの思うように、 ちゃんの人生を生きて欲しいなと思います。
最終的にはきっと、私は ちゃんの選択を、どんな選択であれ、尊重するんだと思います。
でもほんとにいなくなっちゃったら大泣きしちゃうな。三日三晩泣きます。
今も書きながら泣いてるし。
 ちゃんの選択が私にとっても、幸せなものだったら嬉しいな、、とは思っちゃう、、。

頼れる人があんまりいないどころか、家族は敵みたいな状況で、周りも理解してくれる人がいなくて、、そういう状況で今まで自分を守りながら生きてきた ちゃん、本当に凄いなと思った。すごい。
私には想像もできない辛さがずっと続いてるんだろうな、、。
私がその辛さをちょっとでも軽くしたいなんておこがましいんだろうな。
でも出来るならそうしたい、、けど、、難しいんだろうな、、とか思ったり。

これはきっと、ただの子供のワガママです。
読んでくれたのなら、とても、嬉しい。
ほんとに、読んでくれただけですごい嬉しいの、ありがとう。


4月に会う約束をしてるから、それまで我慢なんだ、と悲しそうに笑う彼。次に私が彼と会うのは5月。彼の背負っているものを私は背負ってあげられない。もう一度私は、彼と会えるのだろうか。

あんなに小さかった両手は小さいながらも大人の手になった。乾燥した皮膚が日々の業務を物語る。今は包丁を持たずとも死ぬことができることを知った。

彼も彼女も、確かに死にたそうだけれど死にたくなさそうだった。きっと苦しくなかったら死にたいと思うこともなかったのかもしれない。彼らが求めていたのは、いるのは、救いの死、救済のための死。


私はきっと違う。私は死にたいから死ぬ。苦しいからじゃない。辛いからじゃない。死にたいから死ぬ。それは私の意思、選択、そして生き方。
今はもう、怖くない。

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