明かりもつけず、カーテンも閉め切って、部屋の片隅で膝を抱えて啜り泣いて。でも私の手を拒んだのは君でしょう。知ってるよ、君は私から逃げられない。子供みたいに泣いて、誤魔化すしかないの。 どうせ私のものにならないのなら、私のものにできないのなら、いっそ私の手で君の全てを壊して、全部全部、骨の髄まで、何も残さない、私の中の記憶すらも。なんてね、嘘だよ、全部私のもの。 もういなかった。あの時の、私の好きだった知らない君はもういない。また会えるかもって期待して、他所行きの服を着て、
こっそりと台所に忍び込んで、その小さな両手で包丁を握る。次の瞬間なぜか涙が溢れ出す。何も悲しくなんてないのに。涙は止まるどころか嗚咽さえ洩れていく。彼女は包丁を置いてその場から逃げる様に去った。やっぱり死ぬのは怖かったんだろうか。 自転車に乗ったまま目を瞑って交差点を渡る。誰か弾いてくれないかなって。これで何回目だろう。彼は今日も誰もいないアパートに帰る。 死にたいと言っている人は本当に死にたいわけではないんだと先生が言っていた。他に道がなくて、この苦しみから逃れるための
猫を探している。 紅の帯に黒の打掛、細く長い黒髪がその華奢な背を流れる。柔和に見上げる先は簪に触れる手。 潜んでいるのか、囚われているのか、育まれ、そしていつか、熱い血に乗って意識を奪う。根源を壊して貴方自身を殺す。 猫を探している。 魅せられる切長の瞳と深淵たる瞳孔、薄氷を履む。消費する。消費する。消費する。 甘い誘いは高熱の夜からの救済、霧と枯葉の声が迎えに来る。未だ柔く暖かい、間にあるもの。せめて、貴方が望む苦しみを。 貴方は夢を見るのか、それは記憶か、貴方
ラベリングを好んで一般化された君達。 ラベリングを嫌って誰でもなくなった私。
こんな私でごめんねなんて、言わないでよそんな下品な言葉。 虫唾が走るわ。 今すぐにあなたを、臓腑の一つ一つまで裂いてしまいたい。 そしてそれを、かつてあなただったものを、全部、一つも残さずに私が喰べるの。 あなたは綺麗よ。 そんな軽薄な言葉で許されようとする。 とても醜くて美しい。 そんなあなたを私は愛しているのよ。
あなたは私のものだけれど、私のものにならないで。 知りたいと思うことと知ることは違う。知ろうとすることも。 わかるでしょう。 私のものになってしまったあなたには興味がないの。 あなたは誰のものでも無い。 あなたはあなただけのもの。 けれど私はあなたを私のものにしたいの。 あなたは私のもの。 私には見えないあなたも。 揺らいで、知ることのできない、美しいものでいて。 私のことも、知らないでいて。 それが私たち。 そうでしょう。 私たち、来世でまたダンスでもしましょう。
実家まであと10kmくらいになってやっと実感が湧いてきた。 やっぱり帰りたくないと思った。 帰らなければ、見なければ、まだあの子は元気に過ごしていて、そこにいて、また会えるかも知れない。 本当はまだ。 ちゃんと覚悟をしてきたつもりだった。 ちゃんと向き合うつもりで、帰省の予定をやっと立てて、帰ってきたつもりだった。 ちゃんと向き合う時間を過ごしに、実家に帰ってきた。 シェリーが亡くなったと両親から連絡が入ったのは4月4日、社会人出勤2日目、大学を卒業して看護師になって出勤
私が全て食べてあげるから。 君の全部、私のものだから。 君が吐き出す君の臓腑も。 わたしが全部食べてあげるから。 君は醜い。 寂しくて哀れで醜い。 それが君。 最も美しいもの。 全て、私のもの。
雨 駐車券 ヒールの音 紅白の牡丹 彼女の声 夜のコンビニ 黒のSUV またあの駅 肋骨の曲線 甘い匂い 鼓動
私のための私の時間。 私だけが私を独占してる。 私のための夜。 さっきまで上手に呼吸も出来なかった。 今はもう大丈夫。 吸って、ちゃんと吐き切る。 指先が冷たい。 空気が冷たくなって心地良い。 冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。 緩やかな私の死。 この夜は私のもの。 この世界は私のもの。 私は私だけのもの。
私は私にとって特別だから。 私のことは私がいちばん愛しているし、私がいちばん気に入ってる。 私が世界でいちばん。 私を救えるのは私だけ。 私を救っていいのは私だけ。 私は私だけのもの。 誰かを求めたって結局それじゃ満足出来ないんでしょう。 わかっていること。 これまでもそうだったでしょう。 私を理解できるのは私だけなのだから。 私以外に私を理解されたくもないくせに。 私には私がいるでしょう。 誰にもあげない。 私以外の誰のものにもさせない。 私は私だけのもの。 大丈夫
この生活ももうそろそろ終盤ということで、記録として一応書き残しておこうかなと思った次第であります。 今回はラフにね。作品作りじゃなくて記録ね。(自分に言い聞かせている) この生活もあと今日を入れて3日かな。 今日は日曜で、ほかの日に比べると静かな気がする。 まだ朝だからかな。 もうそろそろ、朝食の時間。 朝はね、一日の中でいちばん痛みが強いとき。 起きた時の苦痛は結構しんどい。 中途覚醒しちゃったらもう最悪。 痛くてそれ以上はなかなか寝れない。 まあ昼間とか、いつでも寝れ
先のことなんて考えたくない。 そんなことを思うのは、きっとそれでも考えてしまうから。 私の、私たちの先のことを。 今が永遠に続けばいい。 続いて欲しい。どうか。 口先だけの約束なんて要らない。 そんなことをするくらいなら、この先から目を背けて、今だけを見つめていたい。 どうか、このまま。 「現実を見て」だなんて言わないで。 「もう大人なんだから」だなんて言わないで。 そんなこと、自分がいちばんよく分かっているでしょう。 あなたも、私も。 将来への不安で、私は息ができな
目を覚ませ。よく眠ることなど求めるな。罌粟の花の香りがする徳を。あなたは無意味に生きる人ではない。 あなたは未だ駱駝にもなれていないというのか。「汝なすべし」を主とし、役者として、詩人として生きていると。 自分の意志を意志せよ。自分の世界を獲得せよ。幼子となれ。 そのためにはまず、多くの重いものに耐え、そして更にそれを求めよ。 あなたは目を背け、逃げている。あなたの意志から。 緩慢な自殺を生とし、生き長らえているのならば、今すぐに死んでしまえ。静かで長く、刹那である場所は
君は知った。 父親は世界ではないということ。 母親は善ではないということ。 でも君はまだ知らない。 どうか、己を生きる君を、魅せて。
彼の手は冷たかった。 冷たくて硬かった。 それはものの様で。 でも彼だった。 彼はもう起きない。 私は彼のその冷たくて硬直した手をゆっくりと、そしてじんわりと、両手で包みながら、握りながら、熱を分けるように指の一本一本を解いていく。 爪が皮膚にくい込んでしまうほど、強く強く握られていたその手は、今や安らかに腹部の上で組まれている。 寝ているようだとは本当によく言ったものだ。 彼も例に違わず今にもまた目を開いて、いつものように笑いながら冗談のひとつでも言いそうである。 そんな