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安息を。

実家まであと10kmくらいになってやっと実感が湧いてきた。
やっぱり帰りたくないと思った。
帰らなければ、見なければ、まだあの子は元気に過ごしていて、そこにいて、また会えるかも知れない。
本当はまだ。

ちゃんと覚悟をしてきたつもりだった。
ちゃんと向き合うつもりで、帰省の予定をやっと立てて、帰ってきたつもりだった。
ちゃんと向き合う時間を過ごしに、実家に帰ってきた。

シェリーが亡くなったと両親から連絡が入ったのは4月4日、社会人出勤2日目、大学を卒業して看護師になって出勤2日目のことだった。
正直ちゃんと悲しむ暇もなかった。
なんだかもうよくわからなかった。
夜は涙が止まらなくて泣きじゃくって翌日は目を腫らして病棟に行ったけれど、それでも自分がどう思っているのか、悲しいのか、何を考えているのか、そもそも考える暇なんかなくて、どうしようもなくて、ただ社会人として目の前にあるタスクをとりあえず消化しなくちゃいけなくて、毎日病棟に行かなきゃいけなくて、毎日新しいことをたくさん覚えなきゃいけなくて、自分の感情に向き合う時間なんてなくて、シェリーのことを考える余裕なんて無くて。

あの子が息を引き取った時、あの子の近くには誰もいなかった。
せめて最後は近くにいて、撫でていたかった。触れていたかった。
1人じゃないよ、一緒にいるよって伝えたかった。
本当に大好きだった。
ずっとずっと、これからもずっと、私は貴女を想い続ける。
そんな言葉じゃ言い表し切れないけれど、本当に大切な存在だから、これからもずっと。

もうハウスが置かれていない少し広くなったリビングで、いつも彼女が横になっていたカーテンの方を見る。
あのカーテンの向こう側にいつもみたいに寝転がっているんじゃないかって思ったりしてみる。
やっと過ごせるシェリーと自分に向き合う時間。

最後、また元気で会おうなって、元気でいろよって声をかけて、頭を撫でて、実家を出た前回の帰省。
またねって言ったじゃん。
ちょっとは覚悟してたけど。
それでも本当に次は会えないだなんて思わないじゃん。
まだあの毛の柔らかさと温もりを覚えてる。
ふわふわで綺麗な長い毛。
帰省した時は毎日私がブラッシングをしてた。
忘れない。

小学生の頃を思い出すとちょっと後悔もあるけど、もっと長い時間散歩に行けたなとか、もっと一緒に遊べたんじゃないかなとか。
中学高校の時は部活ばっかりだったし。
でも、大学生になってからはシェリーに会うために頻繁に長いこと帰省してたし、一緒に過ごす時間を大切にしてた。本当に大切だった。
ありがとう。ごめんね。ありがとう。

大好きだよ。頑張って生きてくれてありがとう。一緒に生きてくれてありがとう。私の家に来てくれてありがとう。うちに来て良かったって思ってくれてたらいいな。私はシェリーが来てくれて本当に幸せだったよ。一緒に生きてこれてすごく幸せだよ。
代わりなんていない。シェリー、貴女のことを想って私は生きる。これからもずっと。





ねえ、なんでいないの。

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