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HIPHOPのライブで泣けた話【2025/01/13 Mummy-D Live! 札幌Cube Garden】
はじめに
私はHIPHOPについて全く詳しくありません。用語や解釈について間違いもあるかと思いますがご了承ください。だからか、HIPHOPを知らない方にも読んでいただける内容です。
また、この記事はレポートというよりは日記です。めっちゃ自分の話をします。したかったので。
そして何よりMummy-Dへの感謝を記しておきたかった。
どんな方にも読んでいただけると、そしてぜひとも彼の楽曲を一度聴いてみていただけると幸いです。
2025年1月13日
札幌ファクトリーの近くにあるライブハウス「Cube Garden」にてMummy-D のライブがあった。彼にとってはじめてのソロアルバムをひっさげたツアーであり、このアルバムの中でもとても意味のある「同じ月を見ていた」の発祥の地でもある札幌での公演。ファンの一人として期待が高まった。
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そしてぜひ「虹色」を聴かせてほしいと願っていた。なぜならそれは「多様な人々への応援歌」であるからだ。それは私がトランス男性であることに少なからず由来する。
トランスジェンダー(Transgender)は、出生時に割り当てられた性別と性自認が異なる人、性別違和を抱き、異なる性別で生きたいと願う、または現に生きている人のことを言います。
以前は男性から女性へのトランジション(性別移行)を望む人をMTF(Male To Female)、女性から男性へのトランスを望む人をFTM(Female to Male)と言っていましたが、現在はトランスジェンダー女性、トランスジェンダー男性という呼び方になっています
私のこと
私の幼少期はきっと良いこともあったのだろうけど、残念ながら思い出すのはあまり良くない記憶が多い。いじめ、虐待、非行、不登校、貧困、孤独、自殺未遂。
そのせいか中学生の頃から夢中になっていたのはいつもロックだった。過激で暴力的で反骨精神に溢れるサウンドの虜だった。力強い音の中にいると嫌なことを忘れさせてくれたし、彼らが自分の代弁をしてくれているような心強さがあった。
自分の出生時の性別が女性であることの違和感はずっとあった。自分は何者なのか?、当時まだLGBTQという言葉がメジャーではないときにその答えはずっと出ずにいた。今もなくならない、自分の身体への嫌悪感。女子グループになじめないことでの疎外感。初恋の女の子への申し訳なさ。自分が悪いんだ、自分が変なんだ。宇宙空間に一人で浮いているような孤独感がいつもあった。
そんなガキも、色んなことに諦めがついたり乗り越えたりして大人になった。人生悪くないって思うことができる、素晴らしい出来事もたくさんあった。
2020年、コロナ禍が世界を襲った。奇しくしも自営の飲食店をはじめたばかり。営業停止などの大打撃を受けながらも、落ち込んでいても仕方がない。空いた時間を有効活用できないかと、友人の誘いでLGBTQの人々の支援をするボランティアをはじめた。
改めて勉強をしていく中、自分自身がLGBTQであるはずなのに知らないことがたくさんあった。トランスジェンダー以外のセクシャリティーについて、政治的な動きによる差別、法律、当事者の自殺率…。不公平で不平等なことだらけだった。
子供や若者たちにこれ以上苦しんでほしくないと強く思った。人と違うことで戸惑ったとき、あなたはあなたで素晴らしいと声をかけられる人が増えて欲しいと思った。
あの頃の私は、そんな大人が欲しかった。生きていていいと、生きて欲しいと抱きしめてくれる大人。自分がそうなることで、私の心の中にいるガキを癒したい。私の活動はただの善行ではなく、エゴが多大に含まれていた。
RHYMESTERとの出会い
コロナで先の見通しが立たない頃YouTubeで「It's A New Day」のMVに出会う。
あまり馴染みのないHIPHOPだったが、ピアノのメロディーとリリックがすとんと胸に落ちてきた。アーティストは自分より少し年上の男性。気になって調べていくとRHYMESTERのMummy-Dというらしい。え?KREVAの「ファンキーグラマラス」の人?HIPHOPを知らなくてもそれは知ってる!いい声だってずっと思ってた。
それから自分じゃどうしようもできないことが多くてもがいた時、何度も聴いた。拳を握りながら泣きながら聴いても、その次は立ち上がることができた。RHYMESTERは自己肯定感をアゲてくれる最強のアーティストだった。
だからMummy-Dがソロ曲「虹色」を発表したとき、驚きと嬉しさが込み上げた。
虹色
タイトルからも察しがつくように、LGBTQなど多様な性の人達へ向けた一曲といってもいいと思う。現在も続いているが、SNSやメディアによる間違った解釈によるトランス女性への差別が激しい中だった。
彼はMVの中で人々と対峙しながら語る。鏡の中に映るのはいつしか他者ではなく、自分自身へと変化する。これは一部のマイノリティだけの問題ではなくて自分自身なのだということに気がつく。
脱げぬ服を着ていると あの日あなたは言った
つまりキミはボクだと その日初めて知った
当事者だからこそ、彼はこの問題について細心の注意を払い、研究し、理解を深めようとしたことが分かる。もちろん感じ方は千差万別であるし、全てが納得できる表現ではないかもしれない。
それでもこの一曲にここまで落とし込んだ努力に感服する。
Mummy-Dが以前からLGBTQアライであることは知っていたが、HIPHOPアーティストがこのような楽曲を作成するなんてきいたことがなかった。彼の彼らしい遊びがちりばめられながらも茶化すことはなく、偉ぶることもなく、誤魔化すこともなく「隣人を愛する」思いがそこには込められていた。
ソロツアーに参加するつもりは元からあったが、虹色が生で聴きたい。絶対に。そんなことを考えながらライブ会場に向かった。
ライブレポート
彼は締めくくりに「なんだかエモかったね」とはにかんだ。そんな夜だった。最高だった。私の表現力が乏しいのが悔しい。本当に最高だった。
彼の故郷である横浜を題材にした「バックミラーの中の街」、横浜といえばで「肉体関係part2」(!)。
「新人だから過去曲ってないんと思ってたけど、そういやあったよ」ってマボロシ「SLOW DOWN!」など数曲。
中学生の娘さんからインスパイアされたという新曲「小さな悪魔の住む洞窟」。
RHYMESTERでは見られないDさんの小粋なダンスなんかもはさみながら、会場は熱を上げていく。
雪解け
そして待ちに待ったゲスト、THA BLUE HERBのBOSSとの「Starting Over」「同じ月を見ていた」。長きに渡るBEEFと呼ばれる最中にいた二人の邂逅である。
HIPHOPで使われるBEEF(ビーフ)とはアーティスト間の喧嘩や揉め事のことです。とはいっても殴る蹴るではありません。歌詞(リリック)で特定の相手や団体を攻撃することです。ディス(罵ること)と同じ?と思われるかもしれませんが、ディスは口先で罵ること。ビーフはそのディスり合い抗争の全体像、現象を指します。
固い握手に始まり、熱いハグで終わった二人の時間に思わず涙が出そうになった。彼らは口を揃えて言う。「俺たちは(敵同士だったけれど)一握りのLoveとRespectだけは忘れなかった。だから関係が修復できた」のだと。
誰にでもいがみ合い、憎しみ合い、もしくは自分の失敗において傷つけてしまったりして、もう二度と会いたくない人はいるだろう。でもその中でもし、心に刺さったトゲが気になる人がいるなら生きているうちに会っておくのがいいのかもしれない。どちらかが死んでしまっては遅いからと彼らは話す。
「俺たちは一曲、間に合ってよかった」。その言葉の裏に、HIPHOPシーンのレジェンドである二人が抱えるものの重さを垣間見た。確かに歴史的な瞬間だった。
アンコール
あっという間のライブだった。アンコールの拍手が鳴り止まない。汗だくのDさん、BOSSとのコラボレーションに感極まったというタケウチカズタケさん、思い出したとハンカチで顔を拭うDJ DAISHIZEN。フィナーレが近い。楽しかったかい?とくしゃくしゃの笑顔で問いかける彼が告げる。
「MVも撮ったあの曲で終わるよ」、虹色だ。
雨音から始まるピアノが聴こえた瞬間、涙が込み上げて止まらなかった。そこでようやく悟った。
私は、とても苦しかったんだと。
SNSでの差別的なポストを理論的に正していたとき、誰かのためといいながら、心の奥底では助けてくれと叫んでいた。いくら慣れたといっても、傷ついていないわけじゃなかった。
街のウィンドウに映る自分はちゃんと男に見えているのだろうか。女として産み、育ててくれた母への申し訳なさ。ままならない生活。経済的な不安。自分自身にある女性的な部分への嫌悪感はいくつになっても消えることはない。
一人でいたってこんなに苦しいのに、追い討ちかけて向かってくるんじゃねーよ!!しったかぶりの連中に言ってやりたかったんだと。認めてほしい、ないことにしないでほしいんだと。
彼は熱く、観客の目をしっかりと見て語った。
キミは美しい 目眩しそうなほど美しい
鏡の中よく似た Somebodyよりも
キミでキミでキミでいればいいんだ
54歳のストーレートな言い回しに気恥ずかしさは全くない。
「日本語ラップ」の先駆者、キングオブステージとも称えられる彼が紡ぐ言葉。それはどんな見た目でも、どんなジェンダーやセクシャルであろうともあなたは美しいということ。
広い花畑に太陽、そして大きな虹がかかったように私は感じた。花々は雨露で光り輝き、太陽が私を励ますような暖かさに、ライブタオルを濡らした。
こんなスゲェ人が私たちの応援をしてくれる。私は素晴らしい、私は自由なんだと言ってくれる。
Dさん、ありがとう。やっぱりMummy-Dは自己肯定感を爆アゲしてくれる。
おわりに
あまりの興奮に、自分語りを大いに含めて書き並べた。Dさんがライブ中にいっていた「消費するだけで生産しないと!」って言葉に当てられた気がしている。
最後まで読んでくださった方がいるなら、ありがとうございます。あといつもライブは一人で行ってて、RHYMESTERを語れる仲間がいないので良かったらSNSをフォローか連絡してください。いっしょに行こきましょう、そしてその後居酒屋で飲みましょう。
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