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CFGやRBに次ぐ新たなフットボールフランチャイズPacific Media Groupとは
# フットボールクラブフランチャイズについて
著名なフットボールフランチャイズとしてSheikh Mansour氏をはじめとする中東の投資家達が投資するCFGや、オーストリアの飲料メーカーRedbullが投資するRBグループ、さらに物理学者でスポーツギャンブルの会社を複数所有するMatthew Benham氏が投資するブレントフォード・ミッテランが挙げられます。
共通の特徴としてデータ活用を非常に重視していることが挙げられます。例えばMatthew Benham氏はストライカー評価のKPIとして得点数ではなくチャンスに繋がるシーンを作り出した数と、同じ得点でも得点した時間帯、何点目かということを注視しています。
近年、ヨーロッパのフットボールビジネスに新たに名乗りを上げているのがPacific Media Group(以下「PMG」)です。彼らは他の数千〜百億円投資するフランチャイズとは違い初期の取得簿価は数十億円(正確な数字は非公開)でベルギー・イングランド・デンマーク・フランス・スイスにポートフォリオを広げています。
彼らの保有するクラブはハイプレスを基調とした特定のプレースタイルを保持し、データドリブンなクラブ運営を行っており、若手への投資に注力しています。以下がPMGのクラブポートフォリオです。
PMG設立 - ニース・トゥーン買収
PMGのオーナーであるPaul Conway氏とChien Lee氏は中国で出会いました。Conway氏は銀行家として中国でTigerMediaという企業を収益化させ、2013年まで経営していました。Lee氏は当時ホテルチェーンを経営している起業家でした。
当初2人は米国企業の中国進出や中国企業の米国進出を手伝っていたのですが、2013年にLee氏とヘッジファンドを設立しました。そこに香港人起業家のGrace Hung氏が加わり、Pacific Media Groupが設立されました。
当初PMGはアジアのエンターテイメントセクターへ注力しており、X-Menアポカリプスや中国マーケット向けのアニメに積極的に投資していました。
PMGのターニングポイントは2016年に中国人ホテルオーナーのAlex Zheng氏とアメリカ人バンカーのElliot Hayes氏がフランス1部所属のニース株式を80%取得したことです。
この際にPMGも出資者として参画しました。PMGからするとエンターテイメント関連の投資ポートフォリオの一角だったのですが、ニースが翌年3位になりチャンピオンズリーグの出場権を獲得したことでビジネスチャンスを見出します。
ここでPMGは、フットボールを純粋なビジネスとして再定義し、既に交渉していたスイスのトゥーンに加え最も放映権メリットの大きいプレミアリーグに参入することを目的としてミドルスブラやハル・シティの株式取得交渉に臨みました。
そして2017年12月にバーンズリーの株式80%を£6.3mで取得します。
バーンズリー買収
買収前のバーンズリーは沈み行く船でした。2016年にチャンピオンシップ(英国2部)に昇格したものの、2017年2月にはPaul Heckingbottom監督がリーズユナイテッドに引き抜かれ、代わりの監督もチームを蘇らせることができず同年5月にEFL1(英国3部)に降格してしまいます。
また、買収前に前オーナーの癌が発覚し、CEOも交代し新たに30歳のフランス人Ganaye氏となりました。
Ganaye氏はリール大学で法学学士を取得し、その後RC Lensでリーガルヘッドやマーケティング責任者を務めていました。
当時から非常に優秀と評判だったようですが、エージェント経由でオファーが来た際には驚いたそうです。
Ganaye氏が新CEOに内定したのは前オーナー時代のことで、CEO就任会見の前夜に前オーナーのCryne氏に呼ばれ「私の癌が発覚したので、クラブを売却したい」という話をされます。そして、PMGとのディールをクローズさせるに至ります。
バーンズリーは降格し、2018-19シーズンを新しいオーナー・監督・CEOの元で戦う必要がありました。そしてGanaye氏は1年でチャンピオンシップに復帰させ、Conway氏とLee氏の提案の元本人曰く「破格の条件」を提示され2019年1月にニースのCEOに就任しました。(現在はナンシーの会長に就任しているようです)
オーステンデ・ナンシー買収
この頃にはバーンズリーとニースの成功からConway氏とLee氏はデータドリブンな内部統制を元にハードプレスを基調をとしたサッカーを展開し、アカデミー組織や若手に投資する方向性は再現性があると確信していました。また、この投資戦略は多くのクラブが目の前の生存に忙殺され方向転換が容易ではないことも彼らの成功の一助となっています。
彼らは投資ポートフォリオを拡大する為に次の買収先クラブ選定を始めました。そこで挙がったのがベルギー1部に所属するKVオーステンデです。オーステンデはベルギー人起業家のMarc Coucke氏がマジョリティを保有していましたが、2017年に同氏がベルギーの名門アンデルレヒトのオーナーになる為(国内リーグの同一名義オーナーシップは禁止されている)オーステンデは彼の家族名義のファンドに売却されていました。
2019-20シーズンにクラブは16チーム中15位と低迷し、€9mの負債を抱えベルギーサッカー協会から新たな投資を受けなければ次年度のライセンスは発行できないとの通達を受けます。
会計事務所を運営するThorsten Theys氏は同クラブの代理人として18グループからオファーを受け、PMGに決定しました。
この際、Conway氏は明確に「私は人々を喜ばせることに興味はなく、純粋にビジネスをしに来た」と口にしたらしいです。当初スタッフやステークホルダーはConway氏を恐れた様ですが、買収時に会長に就任したGanaye氏の手腕とハードワークで人々は心を開いたとのことです。
そしてオーステンデは勝ち星を重ねていきました。方法は明確で、ニースやバーンズリーと同じく若くハードプレスのスペシャリストAlexander Blessin監督をRBライプツィヒのアカデミーからコーチとして引き抜き、チームに強化の為の資金注入をしました。(同氏はシェフィールド・ユナイテッドの監督になる噂がありました)
余談ですが、PMGはトップチームに限らずRBグループとコーチの交換を行っています。
16チーム中15位だったオーステンデは2020-21シーズン終盤を迎えた現在(2021年4月5日執筆)5位に位置しており、CL/ELを射程圏内に捉えています。開幕前に懐疑的だったステークホルダー達も掌を返してチームを応援するようになりました。
そして更にPMGはナンシーを買収します。ミシェル・プラティニが70年代に活躍した頃と違い、ナンシーは2部降格し順位は横ばい、会長のJacques Rousselot氏は売却前に自費で€4mを捻出しチームを存続させていました。2019年12月31日、PMGは9試合勝利無しで2部17位に沈むナンシーを買収しました。買収後14試合で僅か2敗と奮闘しました。
加えて、PMGは今年2月に5クラブ目(Lee氏個人としてはニース含む6クラブ目)となるデンマークEsbjerg(発音がわからず英語表記となります)を買収しました。
PMGの投資戦略
PMGの投資戦略は一貫して「若い選手に投資し、ハイプレスを採択、強化部門はスカウティングやトレーニングなど全てデータによって判断し、ハイプレスとデータドリブンなマインドを持つヘッドコーチを連れてくる」ということに終始しています。PMGのポートフォリオには若いプレイヤーとドイツ人監督のセットが多く見受けられます。
ナンシーでは買収当時経験のある監督がチームを指揮していましたが、PMGはダイレクトに「なぜ30歳以上の選手を多用し、彼らの給与が選手人件費の40%以上を占めているのか」と質問します。監督からは「彼らには高い給与を払っているからだ」と回答し、Conway氏は「意味がわかりません」と返答したとGanaye氏が語っています。
また、各クラブのネットワークによりスカウティングリストと売却候補先クラブの需要がデータによって整備されているので、選手をエージェントを通さず直接クラブと交渉して売却します。
買収の前年、オーステンデは選手売却益が€7mでしたが、€2.5mをエージェントに支払っていたようです。PMGにオーナーが移ってから、過去1年の選手売買に係る費用は€400kに止まっています。
バーンズリーは昨シーズン降格圏ギリギリの21位でしたが今シーズンは5位まで順位を上げています。元々選手達は若くポテンシャルがあり、そこにゲーゲンプレス的なエッセンスが加わり躍進を続けているようです。
また、バーンズリーにおける積極的な若手の起用について若い選手の起用は走る距離の問題ではなく、ハイプレスで走る量をセーブできるのでスプリント力とリアクションの問題だとConway氏は語ります。
オーステンデの会見監査を務めボードメンバーでもあるTheys氏は「来シーズンは我々が運によってではなく、実力で勝利したと証明しなければならない」と語っています。
PMGは様々なクラブとポートフォリオ拡大の為の交渉に入っており、今後も積極的に買収を行う予定のようです。ビジネスマインドを持ったPEファンドや投資家グループがヨーロッパサッカーの世界に参入し、一貫した投資戦略や選手育成メソッドを運用するケースは増えていますが、急速に躍進を続けるPMGにスポットライトを当ててみました。