供養の梨は、秋のはじまり
先週末、実家に帰った時に母から梨を供された。
ちょうどお腹いっぱいだったというのもあり、手をつけずにいたら母がこちらを見ずに「それ、Kの家の梨だよ。」と言った。
Kは小中学校時代の後輩で、Kの兄もまた同じ小中学校にいて、同じ少年野球チームに所属していたことから、家族ぐるみで付き合いがあった。
Kの家は代々果実の農園を営んでいて、毎年夏の終わりから秋の始まりにかけて、Kの母親が袋いっぱいに入った梨を持ってきてくれた。
それから歳月が経ち、子供たちはみんな実家を出てそれぞれの道を歩み始めた。
そんなある日、Kが東京でしていた料理人の仕事を辞め、実家に帰ってきていることを母から知らされた。その時はあまり気にも留めなかったが、しばらくしてからKが亡くなったことを知ることになる。
Kは末期の癌に侵されており、実家に帰ってきていたのは残りの時間を故郷で過ごすためという理由だった。
大人になってそれぞれ忙しく過ごすようになり、Kとは疎遠になってしまっていたが、まだ三十路にもならない若い身空で人生を終えることになってしまったKの見た景色はどんなものだったのか、その後も毎年変わらず差し入れてくれるKの家の梨を食べながら、そっと合掌して思いを馳せるのが私の秋の始まりである。
今年の梨はあまり出来がよくなかったそうだが、なんのことはない。芳醇で優しい甘味のKの農園の、いつもと同じ梨だった。
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