『夜の街で』5話【ー思いつき長編ー】
【始める前に】
この長編の1話はこちらになりますので、先にこちらを読んでいただけますと幸いです。
前回の話はこちら
帰りの始発電車の中で男はポケットに突っ込んでいた小説を開いた。
『1973年のピンボール』という小説だった。
こうして文庫本を開いて、酔っぱらいまみれの電車に乗っていると自分がこの世で唯一のまともな人間かのように感じられる。
その感覚が好きで、始発電車で本を開くのが男のルーティーンになっていた。
電車を降りると最寄り駅で降りてまっすぐ家に帰った。
着ていた革ジャンだけを部屋の隅に投げ捨てて、布団に潜り込んだ。
一人なのであるという、解放感と孤独感が同時に押し寄せてくるのだった。
どこまで行っても自分には誰もいない、自分のことを好きだと言って店に来る女はいずれ来なくなって他の男とセックスをするか、男とセックスができなくてキレるかのどちらかだった。
そしてたまにゆきずりでセックスする女も一晩でいなくなる。
関係が続いても2〜3ヶ月が限度だ。
ホストは夢を売る仕事だが、ホストにはだれが夢を売ってくれるのだろうか。
男はそんなことを思いながらゆっくりと睡魔に身を任せていった。
男はその晩夢をみた。
好きな女を友人に取られる夢だった。
不思議なことに女の子は見覚えがなく、夢の中の「友人」もリアルな友人ではなかった。
しかし、その子は可愛かった。目がクリクリとしていて背は低い西洋人形にようだった。と同時に和服が似合うであろう品の良さまで漂っていた。
誰が見ても可愛いと思うだろう。
「友人」はいかにもヤリチンと言った見た目をしていた長ねの茶髪に流行りのオーバーサイズの服を着こなしている大学生風の男だった。
夢のなかで男は「友人」と酒を飲んでいた。
酒を飲みながら「友人」は嬉しそうに男の好きな人を犯した話をしていた。
男は聞きたくなかったが、なぜか体が動かずにいた。しかも、顔は笑顔を作っていた。悲しくて仕方がないのに。自分が片思いをしていた女の子がどのように「友人」に犯されたか聞かずにはいられなかった。
気付いたら男の方から質問をしていた。どんなふうにヤッたのか、どんな表情だったか。女の子はイッたのか。どのくらいでイッたのか。
「友人」は嬉々として全ての質問に答えた。
男は張り裂けそうな思いを抱えながら、目を覚ました。
下着はベットリと濡れていた。
(続く)