『アイドル』【ショートストーリーのような詩のような何か】
私は美人女優とイケメン俳優の間に生まれた。
お金もあって、可愛くて、コネもあって、考えうる全てを持って生まれた。
そんな私の夢はアイドルになること。
私の歌とダンスでみんなを元気にしたい。
私が持って生まれた才能を世の中に還元したい。
そのための努力をした。
歌と踊りの練習をして、走り込んで体力をつけて、笑顔の作り方を学んで、筋トレで体幹を身につけて、できることはなんでもやった。
お陰で私はアイドルとしてデビューすることになった。
人でいっぱいの神宮球場で、私の努力の成果を、私を応援してくれるたくさんの人々の前で見てもらった。
MCもこの日のためにたくさん考えた。
同じグループの仲間と練習の合間を縫って一緒に何時間も会議をした。
何を話したらファンのみんなは喜んでくれるだろう。
私を見るためだけに仕事を早く抜けてきてくれた人、バイトを頑張ってくれた人、遠方からきてくれた人。
全員に今日まで頑張って良かった、ここまできて良かった、明日からも頑張ろうと思って欲しい。
そんな気持ちで3時間、歌って踊って、喋って、盛り上げ続けた。
途中で足がつりそうになったけど、我慢してやり切った。
みんな喜んでくれた。大歓声で答えてくれた。
私も最高に嬉しかった。
なのに、ネットを見ると酷いコメントばかりだ。
「親の力じゃん」
「よく見るとあんまり可愛くない」
「苦労とかしたことないんだろうな」
「ってうか顔だけ」
「遺伝子ガチャ」
あんなにみんな喜んでくれてたのに、悪口のコメントがこんなにたくさん。
もう歓声は聞こえないのに、コメントはいつまでも消えない。
そんなことがあっても、今日も仕事だ。
誰かを笑顔にできていると信じて、私は今日もどこかの誰かのアイドルであり続ける。