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「スーパーシティ構想」について考える…
人工知能や自動運転車などを活用して、最先端の都市「スーパーシティ」をつくる構想が、国会で審議されています。「スーパーシティ構想」はAIやビッグデータを使って、物流、医療、教育などあらゆる分野の先端技術を組み合わせ、その相乗効果で住みやすい都市作りをめざすものとのこと。
「スーパーシティ構想」及び「スーパーシティ法案」について、自分自身の理解を進めるために、少し整理してみたいと思います。
従来とは違う「スーパーシティ構想」?
関係者によると、再びスーパーシティ構想が注目を集めているとのこと。敢えて“再び”としたのは、日本のスーパーシティ構想への取組は以前から行われてきており、“何度目かのブーム”があったからだとする指摘があります。
従来のスーパーシティ構想が、エネルギーなど個別分野に特化したものが多かったのに対し、最新のスーパーシティ構想はエネルギーに加え、MaaSや通信など幅広い分野を組み込んだ分野横断型のものになっています。さらに、それらを結び付けるのがデータであり、そうしたデータやICTの活用を基本に据えているのが、最新のスーパーシティ構想の特徴と言えます。
スーパーシティ法案(国家戦略特区法改正案)とは
スーパーシティ法案(国家戦略特区法改正案)とは、正式名称は「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案」、国家戦略特別区域に係る法律の特例に関する措置を追加しようとする法案です。この法案によって、戦略特区として「スーパーシティ構想」を実現させる法律案になります。
尚、スーパーシティ法案(国家戦略特区法改正案)は、2020年2月4日に閣議決定され、国会に提出されました。そして、2020年5月22日の参院地方創生・消費者問題特別委員会で、自民、公明、維新などの賛成多数で可決されています。
スーパーシティ法案要綱(PDF形式)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/kettei/pdf/r20204_youkou.pdf
スーパーシティ法案の条文全文
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/201/pdf/t0802010052010.pdf
海外での動き
「スーパーシティ(スマートシティ)構想」に注目が集まっているのは、もちろん日本だけではない。むしろ、海外の方が先行しており、いかに多くのヒトとカネを“その国”の”その都市”に引き寄せられるかという意味で、「スーパーシティ(スマートシティ)構想」は、グローバルな都市間競争を勝ち抜くための一つの“商材”と考えることもできます。
海外のスーパーシティ(スマートシティ)・プロジェクトにおいて、さまざまな意味で象徴的な事例と言えるのが、カナダのトロントで計画されていた「サイドウォーク・トロント」というのがわかってきました。
グーグルの親会社であるアルファベット傘下のSidewalk Labsが参画していたプロジェクトですが、2020年5月7日にSidewalk Labsがプロジェクトそのものから撤退することが決まり、プロジェクトが宙に浮いた形になっています。
ちなみに、このプロジェクトが何度も遅延し、難航した理由は以下の3つの問題に対しての答えが見いだせなかったものと考えています。 ① 納税者がプロジェクトの予算に見合った恩恵を受けられるのか? ② プロジェクトの知的財産の所有権や資金調達はどうなるのか? ③ 民間会社がデータを集めて保護するのか、誰がそのデータを保有するのか?
そして何よりも、GAFAと呼ばれる巨大ITプラットフォーマにデータと利権が集中する可能性を排除したいという「神の力」が働いたのではないかとも思っています。
日本での動きと問題点
2020年5月22日の参院地方創生・消費者問題特別委員会で可決され、与党は5月中の法案可決を目指しているとのこと。
立憲民主党や日本共産党などの共同会派が反対していますが、その理由は「個人情報をまるごと管理してサービスを提供する社会は、一方で監視社会という側面を持つ」という視点をもとに、「最先端技術に対して個人情報を保護する仕組みが確立されていないのに、個人データを管理する都市構想など危険すぎる」として、法案撤回を求めています。
個人的な意見として…
最先端のテクノロジーとプライバシー保護といった民主的な統治機構との統合を目指す「スーパーシティ構想」は、高い目標であり、それだけの困難さが付きまとうものだと思います。
また、データで何ができるのか、そして何をすべきなのか。「スーパーシティ構想」は、この命題を解き明かすための壮大な実験場になるだろうとも思います。
新型コロナ禍によって、日本では様々な問題が噴出しました。例えば「支援金や交付金の振込が遅い」、「布製マスクの配布がいまだに終わっていない」等々ですが、「スマートシティ構想」によって、かなり解決できる問題が含まれていると思います。
ただ、日本で戦略特区として特定都市をスマートシティに指定して動き出したにしても、民間の力を必要とするのは間違いないと思っています。その際は、カナダのトロントでのプロジェクトが宙に浮いている通り、理由として挙げられている3つのポイントについて、きちんとした回答が必要だと思われます。
① 納税者がプロジェクトの予算に見合った恩恵を受けられるのか? ② プロジェクトの知的財産の所有権や資金調達はどうなるのか? ③ 民間会社がデータを集めて保護するのか、誰がそのデータを保有するのか?
まずは、5月中の法案可決が成就するのかを見守りたいと思います!