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ソーシャルセクターにおける指標とチームづくりとは?リディラバ安部敏樹さんと考える社会起業【イベントレポート】

課題が山積する社会状況のなか「社会的課題の解決」と「経済価値」を両立する事業や、社会起業家・アントレプレナーが求められています。

6月8日に、社会価値型スタートアップを支援するプログラム「KSAP(かながわ・スタートアップ・アクセラレーションプログラム)」主催で行われたのは、オンラインイベント「KSAPダイアログナイト#1 リディラバ安部さんと考える これからの社会起業」。

ゲスト登壇者は、株式会社Ridilover代表の安部敏樹氏。参加者・ゲストが一体となって考えていく対話イベント形式で行われました。

▼ゲスト登壇者
安部 敏樹 氏
株式会社Ridilover 代表
1987年京都府生まれ。2007年東京大学入学。大学在学中の2009年に社会問題をツアーにして発信・共有するプラットフォーム『リディラバ』を設立。総務省起業家甲子園日本一、KDDI∞ラボ第5期最優秀賞など受賞多数。第2回若者旅行を応援する取組表彰において観光庁長官賞(最優秀賞)を受賞。

「社会の無関心の打破」を測る指標とは?

社会問題の現場に訪れることができるツアーの提供や会員登録制ウェブメディア「Ridilover Journal」の運営などを行うリディラバ。「社会の無関心を打破する」をテーマとし、扱う社会問題はあえて限定せず、さまざまな社会問題を扱っています。

安部「社会問題は、ひとつの問題で成り立っているのではなく、いくつもの問題がネットワーク化して起っている。それらを構造的に理解することが重要と考えています」

リディラバには大きく分けて2つの事業群があります。一つは、社会問題の認識を共にする人を増やす「社会化」の事業。もう一つは政策づくりなどに携わり、社会問題に対して実際に資金や人材を投入していく「資源投入」の事業です。
社会化の事業としては社会問題を考えるオンラインサロン「リディ部」「リディラバジャーナル」、修学旅行へのスタディツアーの導入などを行っています。

安部「中高生の修学旅行の一環として、社会問題の現場に訪問し、生徒の皆さんに課題を設定してもらうんです。例えばある学校の修学旅行では10グループくらい分かれ、フードロスや臓器移植などさまざまな社会問題の現場を訪れてもらいました。修学旅行以外にも、ある社会問題のステイクホルダーを集めて、みんなで問題解決に向かっていけるようなカンファレンスの開催なども行っています」

リディラバでは、社会の無関心とはどういうことか、概念的に図にしたものを「熱狂マップ」と呼びます。社会課題への関心・関与度合い別で4層あり、円の内側にいくほど、より多くの時間を社会課題の解決に投入している人。安部さんは「リディラバがやるべきことはとにかく熱狂マップを大きくしていくこと」と話します。

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安部「社会的な事業は、成果や社会へのインパクトがあるからこそ存続できるものです。ただし、それは必ずしも『売り上げ』では評価できません。リディラバは何を目指していて、それをどう定量的に測るのかを考えた結果、熱狂マップという考え方が生まれました」

「陰ながら応援しています」という人に、選択肢を

ソーシャルセクターにおける事業には、応援してくれている人たちが存在するでしょう。熱狂マップの一番外側にいる人たち(Liker:社会課題に関わっている人と出会い、関わっている状態)と言うこともできます。しかし事業者側からすると「応援も嬉しいけれど、もう一歩、関わりを持ってほしい」と思うのが本音かもしれません。イベント参加者から安部さんへの質問として「陰ながら応援していますという人を、陰から引っ張り出すにはどうすればいいでしょう?」という声が挙がりました。

安部「私個人で考えると『応援しくれるのなら、じゃあちょっと月1000円くらいでも課金してよ』と思ってしまいますが、逆に考えると事業者側が『応援する形の用意が不十分』と課題設定できると思います」

応援の仕方、関わり方の選択肢を増やした事例として安部さんは、リディラバサロン(リディ部)の事業化の例を紹介しました。現状の方法ではカバーしきれていない層のニーズに合致したものを提供できたことで、事業として形になっています。

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安部「知識を一方通行で伝えるのではなく、仲間同士で学び合うことができる月額5000円のオンラインサロンを始めたんです。『社会問題をインタラクティブに構造理解する体験』や『社会問題を共有して語っていける仲間を見つける機会』は私たちが今まで提供できていなかった価値。『Ridilover Journal』で記事を読むのはハードルが高かったけれど『それならやりたい』と考えて、新しく参加してくれる層が出てきわわけです。
これは、陰ながら応援している人たちに選択肢を提供できていなかったということで、自分たちの改善ポイントを考えるスタンスが大切だと学びましたね」

メンバーは集めるのではなく「集まる」、組織の文化は自然と出てきたものを「言語化」する

イベント終盤、話題にあがったのは「仲間集め」についてでした。「私自身“詰め気質”なので、メンバーに対して申し訳ないことをしてしまったこともありますし、チームアップがうまくいかなかったこともあります」と前置きした上で、リディラバに集まるメンバーについてこう話します。

安部「リディラバには、私自身より“リディラバっぽい人”がいるんです。それは集めたというより『集まってきた』という感じなんです。例えば『ビッグイシュー』に掲載された私のインタビュー記事を読んだことがきっかけで『ここでの仕事が私の天命です!』みたいな感じで入ってきた人もいます」

組織のカルチャーは、意図的に作るというより「自然と出てきたものを、言語化する」ことを大切にしているという安部さん。非営利のプロジェクトから始まったリディラバ。事業化するタイミングで行った「カルチャーづくり」における印象的な出来事について話しました。

安部「外部のファシリテーターに頼んでワークショップをやって、カルチャーの言語化をしたことがあったんです。私の中では『これだ』という感じだったのですが、ボランティアメンバーや社員になろうとしているメンバーはそれに対して『え?』という顔をする。すごく不評だったんですね。
結局そのコピーはボツになり、今はリディラバの『7原則』というものがあって行動指針になっています。ある程度自然と出てきたものなんですよね。僕起点の物に限らず組織で動く中で出てきたリディラバらしさ。それを言語化して共有して、納得する。そういうプロセスを踏んだものが『7原則』として定着しています」

「徐々に組織文化が出てきたときに、ああ大丈夫だなと感じるようになりましたね」と話す安部さんは最後に、組織で動く上ではリーダー自身が自分の性格をしっかり知っておくことが重要だと語りました。

安部
「僕はもともと人の話を聞き入れられないタイプで。何か都合の悪いことを言ってくる人に対しては『こいつらは頭が悪いんだな、うるせー』っていう感じだったんです。でもリディラバ を始めて約10年振り返ると、自分自身の性格に対して一定程度は“しょうがないな”と思いつつ、一方で『あれは素直に聞いておいたほうがよかったな』という話がたくさんある。
自分自身の性格の偏りを知っておくことで、客観的に有意義なアドバイスは受け入れられるような状態を作れるとよいのではないでしょうか」

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