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じさつとたましい48

今日もまた病衣を配り歩いていた。

そして408号室の山根さんの部屋へと入る。

またアメイジンググレースが流れていた。
しかし、今日は音の様子が違う。

どこか疲労したアメイジンググレース。

そうか、これはカセットテープだ…。
毎日毎日聴いていれば確かに疲労してしまう…。

アメイジンググレースは、ひいひい言って
それでも歌い続けていた。
山根さんは気づいているのか、気付いていないのかわからない。
ただ、ただ、赦しを乞いているようだった。

アメイジンググレースは沈没しそうだった。
山根さんの眼はただ一点を、でも遠い一点を、
深い一点を見つめていた。

頑張れ、アメイジンググレースをあともう少し。
私は新しい病衣を置き、汚れ物を握りしめていた。

でも、アメイジンググレースあなたは山根さんの
毎日にとって何者なの。

アメイジンググレースは走り切った。
よろよろと走り切った。

全身に力が入る時間だった。

もう次は歌えないかもしれない。

「山根さん…」

山根さんはまだ一点を見つめていた。

「僕を…赦して…」

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