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[BOOK REVIEW]『フローチャート発達障害漢方薬―生きやすくする漢方薬―』(古郡規雄先生 監修、坂﨑弘美先生・新見正則先生、著)


評者 
高橋孝雄先生
(慶應義塾大学 名誉教授)


こんな私に書評を頼んで大丈夫でしょうか・・・

発達障害に悩む患者さんに、私自身は漢方薬をお勧めしたことがない。

そんな私には立ち読みできそうなこの本がぴったりかもしれない。しかし、こんな私に書評を依頼して、大丈夫でしょうか?

目を引く表紙、タイトル!

「生きやすくする漢方薬」というサブタイトルが目を引いた。

生きにくくないのであれば障害とは言えない、という発達障害の神髄を押さえたサブタイトル。まさに言い得て妙であり、本書をペラペラと読んでみようかと思わせるに十分であった。

見開き2ページ、フローチャートという作り

左ページに例えば「多動・イライラ」などの具体的な困りごとが2つ、3つ大書きされている。左ページだけをぺらぺらと見ていくと、15分ほどですべて読み終わった。

発達障害で直面する問題、生きにくさの全貌が見えてくる。病名や病態ではなく、困りごとから入る。漢方的な視点に合点がいった。これだけで、本書に目を通す価値がある。目を通すだけで充分である。

薬の漢字名はほとんど読めない

見開きで困りごとと効きそうな漢方薬が提案されている。ペラペラと見ていくと、これもおそらく15分ほどですべて読み終わった。

登場する漢方薬名、私はほとんど読めなかった。しかし、すべてにフリガナが振ってあるので助かった。いまさら人に聞けない、当方の弱みを心得ていた。ぬかりない。

「試してみたら?」と語りかけてくる

漢字名は読めても、薬効となるとまるでわからない。と思ったらそれぞれの薬に数行の解説がついていた。なるほど、試してみる価値はありそうか、と思わせる。一度、腰を据えて通読してみようかと思わせる。うまい手口。

医学書というより短編集

見開き2ページ、下4分の1には数行で関連した話題が提供されている。短く歯切れがいい。息抜きと言えば息抜き。読み飛ばしてもいいが、気になる。さらに、1~2ページに収まる「コラム」。本の随所に、突然、現れる。いずれも、じっくり読む価値がある。これは短編集か。

さらに、ふたりの著者からのまじめなメッセージ。10ページ程度の短編だ。「ごゆっくり・・・。通読してよ」と語りかけてくる。予想外に強いメッセージ。

やんわりとした本です

立ち読みでペラペラと目を通し、結局、購入してじっくり読み込むことになる。「発達障害に漢方薬、効くかもしれないから試してごらんよ」。そんな本です。



新見正則先生のシリーズ刊行にあたって

物心ついた時からどもり(吃音)があった僕の人生です.僕は書かれた文字を音読すること(たどり読み)ができませんでした.そして,落ちつきがまったくなく,忘れ物が多く,逆上がりができず,靴紐の蝶々結びができず,縄跳びが超苦手で,行進の時は右手と右足が一緒にでるような子どもでした.国鉄の時刻表を覚えるのは得意でした.吃音のために電話がかけられず,パニックになることもありました.自動券売機がなかった当時,駅でキップを買うことができませんでした.

 発達障害の1つであるADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断項目を完全に満たす少年時代でしたが,幸いそんなまったく落ちつきのない子どもにも寛容な時代でした.僕は社会生活(小学校や中学校生活)をなんとかやり過ごすことができました.そして極めて楽天的な母のおかげで「勉強しなさい!」と小言を言われた記憶は一切ありません.とてもスクスクと育ちました.学校の先生にも友だちにも恵まれました.つまり僕の発達障害は周囲の理解と僕の運の良さで「特性・個性」の範囲でした.吃音は自分で公言するようになってから影を潜めました.

 今は,そんな子ども時代の経験と四半世紀に及ぶ漢方の勉強を重ね合わせて,発達障害や吃音の患者さんを治療する機会が増えました.そんな僕の経験と,小児科のスーパースターである坂﨑先生の経験が本になりました.

 漢方薬は生薬の足し算です.長い経験をもとに生薬を加減し,さまざまな症状に有効な漢方薬を探してきました.単一成分が多くを占める西洋薬と異なり,生薬は天然物で多成分系です.さらに生薬の足し算のうえに成り立っている漢方薬も当然,多成分系の薬剤です.現在のサイエンスのレベルでは複雑系に属する多成分系の機序を解明することはできません.わかっているのはこんな症状にはこんな漢方薬が効いたという経験知です.

 一見怪しい漢方薬ですが,西洋薬で効果が得られない時,また西洋薬の効果を増したい時,そして西洋薬の副作用対策などには結構役立ちます.漢方薬に興味がある方は僕たちのフローチャートシリーズ(新興医学出版社)をご利用ください.ラインナップが相当幅広く揃っていますよ.

 現在,発達障害の症状に有効な西洋薬はごくわずかです.そして発達障害を治す西洋薬はまだ登場していません.現在お困りの皆さんには,ぜひ発達障害の治療のピースの1つとして漢方薬もご利用ください.本書では,僕と坂﨑先生の経験をもとに,ファーストチョイスになる保険適用漢方薬をご紹介しています.

 この書籍を参考に,発達障害の患者さんを治療している方,また発達障害のお子さんを持っている方,そして発達障害があるご本人が,いろいろと漢方薬を試して頂けることを願っています.そして成功例が積み重ねられると,発達障害の方に広くお役に立つと思っています.発達障害を持つ方の多くが特性・個性として社会に受け入れられるための一助として漢方薬が活用されることを願っています.

                             新見正則

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