10年分の感謝 新見正則
健康寿命まであと10年だって!
先週2月24日、じつは僕の誕生日でした。アップルコンピュータの創業者、スティーブ・ジョブズと同じ誕生日です。月に一度仕事で会える同級生とのおしゃべりで、「日本人の男子の健康寿命は72歳だよ。おれもお前もあと10年だ!」と言われ、衝撃を受けました。
あと10年って、超ショック
リンダ・グラットンの著書『ライフ・シフト』を読んで、僕は定年後も死ぬまで相当長い期間働くものだと信じていました。定年したからってすぐに死ねるわけでもなく、相当な時間、働かなければならないと。いまの時代、ひょっとしたら医師の仕事だけではだめかもしれない。定年後にそんな長い挑戦が待っているのだと。でも、もしかすると僕が元気であれこれできる時間は10年前後なのかもしれないのです。
3.11のあの日、僕は外科医でした
10年前、東日本大震災が起こりました。大学病院で外来をしている真っ最中の出来事でした。経験したことがない横揺れで、机が大きな部屋の端まで移動しました。しばらくするとテレビで惨状が流れてきました。
当時、僕は外科医で、将来もずっと外科医を続けるのはなんとなく無理だと思っていました。外科医からマルチなことができる医師、そして医師以外の領域にも興味を広げていた時期でした。
外科医から漢方啓蒙者へ!
当時、漢方の魅力が大分わかってきた時期でもありました。漢方はこんなにも魅力のある医療ツールなのだから、医師なら誰でも漢方薬を気軽に処方できるようにしたいと壮大なプロジェクトを思いついた時期でもありました。
僕は今までの漢方の勉強法を打ち壊して、医師なら誰でもすぐに処方できるモダン・カンポウという勉強法の啓蒙普及にアクセルを踏み込みました。日本では医師であれば誰でも保険適用の漢方薬を処方できます。当時、西洋医学の医師にとって漢方の処方はハードルの高いものでしたが、西洋医学で治らない人の多くが漢方で救われるように一生懸命啓蒙したのです。
そんなモダン・カンポウプロジェクトの黎明期が10年前です。新興医学出版社の林社長とふたりで「本当に明日から使える漢方薬(7時間速習入門コース)の原稿のチェックをしたのが昨日のようです。
娘もまだ小さかったし、とんでもないこと言ってました
10年前は一人娘もまだ小学校低学年でした。そんな娘に「勉強しろ!」と叱咤激励するのは性に合わず、僕自身が勉強している姿、努力している姿を見せれば、自ずと何か始めるだろうと思っていました。
50歳の金槌なのに、泳ごうだって。 ドヒャー、だよね
ところがある日、「パパ、一緒に泳ごうよ」なんて言い出しました。僕は金槌でまったく泳げませんでした。泳げないことは本当にコンプレックスでした。そんな思いを娘にさせたくないので、娘は1歳になる前から水泳を習わせています。はっきりいうと、家内が掴んでプールに潜らせるといった感じです。そしてすでに4泳法が泳げるようになっていました。そんな娘から「パパと一緒に泳ぎたいよ!」と言われたのです。
そんな無謀な提案が泣きたいほどの感動をくれた
僕は、一念発起して水泳の練習を始めました。そしてボツボツと泳げるようになり、凝り性な僕は、次にランニング、そして自転車を始めて、ついにはトライアスロンに挑戦しました。そして娘と一緒に佐渡に行って、娘はキッズのトライアスロンに挑戦、僕は日本で一番長い佐渡トライアスロンAタイプ(スイム3.8km、自転車190km、フルマラソン42.2km=236km)を14時間18分で完走しました。ゼロから成し遂げる感動を娘と一緒に味わいました。
きっともう大丈夫、強く、しなやかに生きてほしい
来年受験を迎える娘が今何になりたいかは知りません。でも何かを勉強することは嫌いではないようです。時代は変わるとだけ言い続けています。親の言うことを守って励行すれば成功した時代は終わったと何度も語っています。きっと変化に合わせてしなやかに生きていけると期待しています。
人脈同士が勝手につながる不思議
この10年間でいろいろなことが起こりました。僕も複数の仕事を持つようになりました。いろいろなことに興味をもって、いろいろなことにどんどん挑戦しました。人脈もどんどん広がり、人脈同士が勝手につながるようになりました。
スティーブ・ジョブズの有名なスピーチ、Connecting Dotsでは、点と点がつながると言います。将来を見越して点をつなげるように動くことが大切なのではなく、興味があることをともかくやりまくることが大切なのです。そして後から振り返ったとき、その1つ1つの努力はつながっているものだと言うのです。僕もその通りだと思います。
ひととの出会いに感謝して次の10年へ
先が読めない時代、先読みして点をつなげるように動いてもどうなるかわかりません。自分の興味があるものをたくさん習得していくと、それが将来思っても見ない形でつながっているものだと心底実感します。次の10年、そしてその後も時代に逆らわずに生き抜こうと思っています。自分の健康寿命が尽きるまで!