BOOKREVIEW『頭痛外来ガイド』丹波 潔・武藤芳照 著
評者
西山和利(北里大学医学部脳神経内科学・主任教授)
新興医学出版社から上梓されたばかりの『頭痛外来ガイド』をお届けいただいた。
著者の一人である丹羽潔先生は都内に頭痛専門クリニックを開業し、多くのテレビ番組で頭痛の解説をしておられる頭痛の大家である。
年齢的には評者と同世代ではあるが、頭痛診療においては評者が師として尊敬する人物である。そのように著者を詳らかに知る者として『頭痛外来ガイド』を読ませていただいた。
大学病院に勤める評者は外来で最も多い主訴の一つが頭痛であると学生に教えている。しかし本邦では頭痛を専門にしている大学医局や大学教授は決して多くはなく、頭痛だけで会社や学校を休むことは容易ではないのが日本社会の現状である。
日本の頭痛が「たかが頭痛」と言われる所以である。
しかし実際には頭痛の診断は難しく、時として治療も難しい。脳神経内科専門医である評者ですらそのように感じる。
一次性頭痛の診断には、この検査で陽性ならこの診断といった簡単な診断のレールは敷かれていないのが一因である。が、よくわからないからと頭痛薬を盲目的に多用していると薬剤乱用性頭痛という泥沼にはまっていく。
また頭痛を主訴として来院した患者が、その後の検査で生命にかかわる怖い頭痛、即ち二次性頭痛、であったと判明して肝を冷やした脳神経内科医や脳神経外科医は少なくないはずである。しかも本邦には頭痛に苦しむ患者さんは実に4,000万人もおられ、頭痛のために社会が負う損失は日本だけでも毎年3000億円以上である。
つまり「たかが頭痛」と軽んじられてはいるが、実は「されど頭痛」なのである。
片頭痛に対する分子標的薬の登場、コロナ禍に関連した様々な頭痛の蔓延、など様々な話題のあった2021年の頭痛診療であるが、この絶好のタイミングで著者らが満を持して脱稿したのが本書なのである。
本書を読了した評者は深い感銘を受けた。
なぜなら本書が頭痛専門医にも、頭痛を専門としない医療関係者にも、さらには頭痛の当事者やご家族にも大いなる満足感をもたらす書籍であると確信したからである。
しばしば出会うタイプの頭痛の解説はもちろんのこと、見落とすと生命にかかわる怖い頭痛の詳説、頭痛の最新の治療法、更には頭痛当事者として知っておくと良い情報や様々なトリビアに至るまで、誠にわかりやすい解説を提供してくれている。
著者である丹羽潔先生と武藤芳照先生が各々の特長を遺憾なく発揮した共同作業の賜物である本書では、どのページを開いても内容は幅広く奥が深い。
しかも書き方は徹底してわかりやすく簡潔である。
外来で頭痛を診る可能性があるすべての医療関係者に、そして頭痛の当事者やご家族にも、是非手にとっていただきたい名著である。
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*本書評はmedicina159巻3号(2022年3月)に掲載された。