9人に1人が乳がんになる時代 新見正則
1年間に10万人が乳がんと診断される
高齢化が進んだ今、がんと診断される人の数は増えてきています。1981年から、日本人の死亡原因は、「がん」が第一位となっています。しかし、その一方で、がん治療は進歩し、治療のための技術も成績も向上しています。その中でも、今回は「乳がん」について少し詳しくお話していきたいと思います。
1年間に10万人が診断される「乳がん」。罹患者数(がんと診断される数)では、女性の1位となっている現状があります。9人に1人が乳がんになり、自分や家族、パートナーがいつ乳がんを発症してもおかしくはありません。しかし、発症率が高いからといって、怖がることはないのです。
乳がんによる死亡者数は、女性の死亡要因の5位。罹患者数の1位からかなり順位を下げています。さらに、他のがんは年齢が高くなるとともに罹患者の数も増加していくのに対し、乳がんのピークは40歳代。乳がん全体でいえば、5年後生存率(治療後、5年経過したときの生存率)は、約90%を超え、10年後生存率も約80%、早期に発見できれば100%近くになり、かなり高い数値となっているのです。
乳がん治療に新しい発見
これまで、がんは次第に大きくなり、周囲の組織に徐々に広がっていき(浸潤)、その後、違う場所にも転移しているのだろうと思われていました。そのため、1990年より前の乳がんの手術は、乳腺が主にある部分(胸部のふくらみのあるところ)だけでなく、乳腺がのっている筋肉(大胸筋)やリンパ節もできるかぎり大きく取り除くという手術が一般的だったのです。ハルステッドという医者が確立したこの手術は、20世紀終盤まで行われていました。
ところが、フィッシャーによって、乳がんの治療に新しい見解が唱えられるようになりました。なんと、乳がんは最初から微小転移をしている可能性が高く、それまで転移を予防するために筋肉やリンパ節を一緒に取り除いてしまうという方法は、意味がなかったということが分かったのです。そこから、複数のくじ引き試験(ランダム化比較試験)を重ね、乳腺だけを取り除いても、周囲を余分に取り除いておいても、差が出ないという結論づけられ、乳がん治療にパラダイムシフトが起こったのです。
私たちは、毎日5,000個のがん細胞を生み、退治している
そもそも人の身体は、細胞分裂を繰り返して生きています。60兆個もの細胞が人体を構成し、毎日1兆個の細胞が新しいものに生まれ変わっているのです。その中でも、5000個の細胞ががん細胞として生まれていると順天堂の奥村康先生はいいます。そんな、日々私たちのなかで生まれるがん細胞の芽を私たちは自分の免疫システムによって退治しているのです。この概念は、すでに1960年にノーベル医学生理学賞を受賞したバーネットが提唱しています。
つまり、がんは細胞として生まれ、人体と共存し、そののちに免疫システムをくぐり向けたものが大きく成長することで、私たちが知る「がん」を判別できるようになるのです。
次回のマガジンでは、なぜ乳がんはうまれるのか、もし乳がんになったら胸はなくすしか方法はないのか、さらに進化した乳がんの治療方法についてなど、より深いお話をお届けします。
次回の更新をお楽しみに。