BOOKREVIEW 『てんかん臨床に向きあうためのシナリオ』 岩佐博人著
評者 池田昭夫(京都大学教授、日本てんかん学会理事長)
てんかん診療を行う精神科以外の診療科の先生
にとっての福音
新興医学出版社から、このたび、きさらづてんかんセンター・センター長の岩佐博人先生による『てんかん臨床に向きあうためのシナリオ』が出版されました。
主たる編著者の岩佐先生は、精神科の立場から臨床てんかんのみならず実験てんかん、脳波のダイポール解析などを長年積み重ね、現在まで日本てんかん学会の理事、財務担当理事を長年務めてこられました。
先生の今までの幅広い経験のなかから、本書は書名のとおりに、てんかん臨床に向きあう時の精神科的視野とアプローチの視点の重要性を、症例を交えながら解説されており、日々てんかん臨床に向き合う精神科以外の診療科の先生に対して、いかに精神科視点が重要か、また、それがいかに診療の幅と医師と患者の関係に重要であるかを教えてくれます。
これはもちろん一般診療に通じることでも重要ですが、特にてんかん診療では欠かすことができない内容であるということが、ケースを読み進めていくと実感できます。
内容は8編のチャプター構成からなり、それぞれのチャプターには重要なone point comment(例えば、ことがば真実を伝えない場合がある、アドバイスする時の注意点、時を過ぎてみないとわからないなど)について、わかりやすく理路整然と説明されていて、脳神経内科医でてんかん診療をする小生にとっては、「眼から鱗」「あの時はこのように対応すればよかったかもしれない」と、過去の様々なことに思いを馳せながら読み進めました。
てんかん学の専門の先生にとってもご自身の経験上、過去に解決できなかった、腑に落ちなかった場合のことが理解できるための福音になると思います。
例えば、「本当のことは言葉にはならない?」などは大変印象的でした。
てんかん診療での病歴・発作症候の記載などは、言語化して分析することが基本で、小生は「病歴・発作症候の記載は、臨床神経生理的所見を定性的に言語化したもの」と考えており、それ以外にも広く言語化することの重要性を意識していましたが、一方で「本当のことは言葉にはならない?」というメッセージとその視点の重要性を改めて認識した次第です。
「外から見えない部分も考える」も長期的展望、現在の病態を考える時には重要なメッセージでした。上記以外にも、もちろん一般てんかん診療の基礎的内容は広く重要な点をわかりやすく記載されていて、またCOLUMNでは、少し息抜き的な岩佐先生の考え方などが文献と一緒に記載されています。
てんかん臨床に関わる医師のみならず心理士、メディカルスタッフの方にも最適です。また、てんかんを専門にしていない方にも、精神科がてんかんの基本診療科の一つである理由も含めて、広くてんかんを正しく理解していただける本となっています。
日々の診療ではどうしても時間に追われて、またこの発作をいかに止めるかということに腐心して視野が狭くなりがちになることがありますが、今後あるいは現在てんかん診療をされている、特に精神科以外の診療科の先生にとっては、精神科的視点を理解することで、本書がご自身のてんかん診療の幅あるいは考え方を広げてくれて、転ばぬ先の杖となり、臨床てんかん学、てんかん病態、脳科学、精神医学、へのこれまでとは違った視点が広がるのではないかと思います。
2021年4月吉日
京都大学医学研究科てんかん・運動異常生理学講座教授
日本てんかん学会理事長
池田昭夫
この書評は内科系臨床誌 medicina 58巻7号に掲載されました。
本書まえがきより
てんかんに関する医療や研究の進歩とは裏腹に、いまだに「てんかんはわかりにくくて、対処が難しい」と思われてしまい、てんかん診療の裾野がいっこうに広がらないという現実もあります。
確かに、筆者自身も「てんかんは難しい」と感じることがあるのは偽らざる実感です。そこで、何が、あるいは、どうして難しいと感じるのか、その理由を整理してみることも必要と考えています。
しかるに、本書は「てんかん」を見えにくくしている霧を、どれだけ払うことができるかという試みであり、使える道具が少ないなら少ないなりに、どのようなてんかん診療が可能なのかを、筆者自身のリアルな体験を交えて反芻する試みでもあります。
岩佐博人
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