Special Talk as Specialty Hospitals
『伊藤病院×相良病院 甲状腺疾患と乳がんのケア』 書籍刊行を記念した特別対談!
司会(林) まず、なぜこの本の企画が立ち上がったのかについて、伊藤先生と相良先生がお付き合いをなさるきっかけ、また、どんな経緯があったのかということなどについてお伺いしてみたいと思います。ではお願いいたします。
フランスへの視察旅行が始まりでした
伊藤 相良先生とのお付き合いは9年となります。毎年9月、パリにて、親友である国際医療福祉大学の高橋泰教授がアドバイザー、私が団長を務めて「日仏医療管理フォーラム」を開催しています。相良先生が2013年の会に参加され、そこで初めてお目にかかりました。
相良病院については、専門領域は異なりますが、有名な専門病院として注目しておりました。よって是非ともお会いしたかった病院長との異国での出逢いは、より感動的でした。すぐさま意気投合し、その後も実のあるお付き合いをいただいております。
相良 はい、伊藤先生からフランス視察旅行のお誘いの手紙が来て、私はかねてから、医者としてはもちろんですが、経営者として、いろいろ教えてほしい、話をしたいと思っていましたので、一緒にフランスに視察旅行に行って、先生の仕事に対するお考えや、プライベートの先生の生の姿を見て、ああ、やはりかっこいいなと思っていました(笑)。それから伊藤先生に公私ともお世話になっているというところです。
専門病院の三代目、それぞれの歴史から連なる思い
司会(林) 有り難うございます。そんな出会いから始まったわけですね。甲状腺疾患専門の伊藤病院、乳がん専門の相良病院、それぞれの専門病院としての目的あるいは使命といったものについてお伺いしたいと思いますが、ではまずその前にそれぞれの病院の歴史について簡単にお話いただけますでしょうか?
伊藤 相良先生のほうからどうぞ。
相良 私で三代目になりますが、父の代から乳がんの専門病院を始めました。
私が大学を卒業したとき、父を残して他の先生方が皆辞めてしまいましたので
大学病院の研修を受けずにいきなり自分の病院に入職しました。
2年ほどしたら、ドクターが2人就職してくれたので、大学病院の放射線科に入局しました。結局、専門医を取得することより自分の病院に入って、ずっと相良病院の現場で働くことを選択し、相良病院での診療を続けています。2011年に社会医療法人になったと同時に理事長になり、今は経営が7割、診療が3割ぐらいです。
伊藤 当院の歴史を紹介いたします。私も3代目です。創業者である伊藤尹が満州医科大学で病理医として働いた際に甲状腺疾患に興味を抱いたのが原点です。
その後、祖父は外科に転籍し、大分県の野口病院で副院長を務めたうえで、祖母の郷里である東京都神宮前にて昭和12年に伊藤病院を開業しました。
20年間をかけて甲状腺疾患専門病院の基礎を作ったわけですが、太平洋戦争の戦火に見舞われ、病院を焼失し、河口湖での疎開診療を経て、再び東京に戻ってまいりました。品川区武蔵小山で病院診療を行いつつ、現在地で再び新しい病院を建築しました。
ところが祖父は建築中に、胃がんで亡くなり、婿養子であった父が35歳で継承しました。患者が激減するなど、父は大変な苦労を強いられましたが、持ち前の生真面目さで頑張り、その後40年間をかけて専門病院のスタイルを確立し、25年前、私に院長職を譲りました。
三代目である私は周囲に大いに甘やかされ、初代と二代目の苦労を分からず、平和に過ごしました。北里大学医学部を卒業後、家業継承を意識し、東京女子医科大学内分泌外科に入局し、10年間勤務した後、伊藤病院に着任し、3年間が経ったところで病院長となりました。
このように創業の志を忘れずに、血縁で専門病院の管理を3代続けてきたことを誇らしく思っております。
司会(林) ありがとうございます。それでは次に伊藤病院、相良病院、ぞれぞれの目的あるいは使命といったものについてお伺いできますでしょうか。
伊藤 三つのミッションを掲げております。まずは甲状腺疾患専門病院であり続けることです。よって守備範囲と適正規模を死守しております。
二つ目は、民間病院の強みを活かすことです。制度に守られている公的病院よりも民間病院には自由があります。よって独自に発想し常にフレキシビリティのある組織や環境を保つことに心掛けています。
三つ目は、専門病院としての学術活動を重視しております。国内外の学会や学術誌を通じて、伊藤病院から発信する医学情報は世界中から注目されております。
以上、三つのミッションを常に意識しながら専門医療に従事しております。
司会(林) いいですね、素晴らしいです。では、相良先生お願いします。
相良 私たちの場合は地域性もあるのですが、離島僻地が多いので、がんの専門病院という自負をもって、医療の均てん化を図るのを使命としています。
離島にドクターを派遣して、そこで離島医療も行うというのが鹿児島県の中にある乳がんの専門病院の役割と考えています。地理的や経済的な問題で離島から来られずに専門的医療を受けられない人たちをどうやってなくしていくかというのを、社会医療法人という立場もあるのですが、私たちの使命としています。
専門病院としての強みと弱みとは?
司会(林) ありがとうございます。では、それぞれの病院の強みと弱みについて、お話をお願いできますでしょうか。
伊藤 相良病院とも一致しているものと思いますが、専門病院の強みは、対象臓器が定まっておりますので、医師、看護師に限らず、臨床検査技師や薬剤師、事務方に至るまで、全職員が同じ方向を向いているところです。
共通言語も存在し、さまざまな場面で効率性が生まれてまいります。独自に開発した電子カルテや診療連携システムを始め、薬剤、検査試薬、医療材料などの購入など、効率的な管理運営が可能となります。
弱みは、同じ仕事の繰り返しによるマンネリ化と気の緩みに尽きます。総合病院であれば診療科同士での助け合いが存在しますが、伊藤病院と相良病院は甲状腺と乳腺に対する診療の信用を失墜した場合、他にカードはありませんので、取り返しがつかない状態になります。だからこそ常に緊張感を持って職責を果たしております。
司会(林) ありがとうございます。相良先生、どうぞお願いします。
相良 私たちの強みは、乳がんの患者さんに科学的根拠に基づいた治療を提示する責任として、がんの患者さんが治療と向き合える環境づくりを大切にしていることです。それは治療とは関係ないところ、採算が取れないところです。
例えばがんの親を持つ子どものケアとか就労支援、僻地診療などであり、そういった環境整備までしっかりと行うことができているというのが、がん専門病院の強みと思います。それと甲状腺も乳腺も同じだと思うのですが、患者さんが診察を積み重ねていって減ることがない、再診の患者さんがどんどん増えていく、そういった積み重ねがあるというのは専門病院の強みかと思います。
弱みは、先ほど伊藤先生が言われたようにマンネリ化というのもある。あとは新しい医療技術とか治療法が見つかったとき、手術がなくなったらどうするかとか、そういうところですね。新しい技術ですべてが変わってしまう危うさもあるのかなと思います。
女性医療としての共通点を活かして
司会(林) それでは今回の書籍企画の発端ともなった共通点について、伊藤先生からお願いいたします。
伊藤 両病院の共通点は、何と言っても患者さんが女性だということです。乳がんのほうが当然、女性のパーセンテージが高いわけですが、甲状腺疾患も9割が女性患者ですので、女性のための病院と申し上げても過言ではありません。
それから、扱う臓器が体表臓器であり、双方ともに外科、内科、放射線科の三つの診療科によって診断・治療が組まれていることです。
診断デバイスも共通しておりますし、癌に対する化学療法や分子標的薬治療なども類似しております。相良先生も同感だと思いますが。
相良 対象者が女性故の女性を意識した環境づくりをしないといけない、というのもありますし、診断から治療まで行う過程がすごく似ている。先生が言われたとおりだと思います。
伊藤 そうですね。今後は合同で診療や看護のカンファレンスを実施しようという案もあります。コロナ禍での作業でしたが、書籍の制作を通じて深い絆ができました。今後も、互いに切磋琢磨しながら、理想的な姉妹病院を構築したいと思っております。
相良 さすがですね(笑)。期待というか、とにかく日本の専門病院、どこの専門病院もそうだと思うのですが、伊藤病院は本当に憧れの病院なので、こうやって一緒に交流していくということがスタッフにとってもすごく励みになってうれしいことなので、これからもぜひ交流させていただきたいというのが希望です。
伊藤 看護書籍発行で、我々の底力が証明されました。そこで、今後も共通の目標を立てて両院が発展していくことを切に願っております。
司会(林) 本日は、ありがとうございました。
伊藤病院×相良病院 甲状腺疾患と乳がんのケア
監修:伊藤公一(伊藤病院 院長)、相良吉昭(相良病院 理事長、さがら病院宮崎 理事長)
編著:石澤緑(伊藤病院看護部 部長)、江口惠子(相良病院看護部 顧問)
B5判 174頁
定価(4,200円+税)、消費税10%込み(4,620円)
甲状腺疾患専門の伊藤病院、乳がん専門の相良病院、2つの専門病院から集結された看護のノウハウや神髄が凝縮された1冊となっています。臨床経験の豊富な看護師が経験から得たポイントやコツを解説。臨床の現場でよく遭遇する事例も掲載し、実践にすぐ生かせる内容となっています。スペシャリティーによる看護参考書の決定版ともいえる本書。女性医療に携わる方はもちろん、すべての看護職の方に読んで欲しい。
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