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ひらいめぐみ『転職ばっかりうまくなる』
倉庫作業、コンビニ、営業、書店スタッフ、ライター、事務局……。20代で6回の転職を経験した著者によるエッセイ。
こんなにきれいな夕焼けを誰も見ていない、誰とも共有できない会社で働き続けることが、わたしにとって、なによりも耐えられないことだった。ここに馴染めたら、きっといつかわたしも窓から見える景色に、心が動かなくなってしまう。
雑記
大学を出て数年経ち、仕事を辞めてふらふらしていた頃、友人の結婚式に出席した。
私はその期間を自分なりに楽しく過ごしていたのだが、出席した友人の多くは一般企業に正社員として勤めていていて、かたや自分は確固たる肩書もなく、トイレで遭遇した友人に近況を話すと「ぱーちゃん(当時そう呼ばれていた)は、ぱーちゃんになるんやろな」と言われた。
当時、先行きが何も見えていなかった自分は「何を勝手な」という気持ちと「まあなんか、そうかもしれんな」という気持ちの混じった手を「あはは」と言いながら石鹸で洗ったのだった。その時のことを思い出した。
著者のひらいさんは、吉本ばななの「なにをするために人は生まれてきたかというと、私は、それぞれが自分を極めることだと思っています。」という言葉を引用しつつ「自分自身を極めること」について書いている。
では、自分を極めるためにはどうしたらいいのか。それは、自分が少しでも違和感を抱いたら、ひとつひとつきちんと距離を取っていくことだと思う。
ひらいさんは、職場のそばに川があると嬉しいとか、窓がないと窮屈とか、仕事机でごはんを食べたくないとか、そういうミクロなレベルで周囲の環境と自分とがフィットするかどうかを検知し、ひらりひらりと仕事を変えてゆく。
自分を極めるための肝となる「違和感」はごくごく細部に宿るのだ、ということを教えてくれる。