お菓子業界もDXが必要な時代です
こんにちは。新杵堂の田口和寿です。
お菓子作りと聞くと、皆さんはどんな光景を思い浮かべるでしょうか?
和やかな職人たちが手を動かし、甘い香りが漂う工房――そんな情景が浮かぶ方も多いかもしれません。しかし、今この業界には、甘い香りとは別の「未来への挑戦」の空気が流れています。
DX――デジタルトランスフォーメーション。
かつてはIT企業や大手製造業だけが関係する言葉だったこのDXが、今やお菓子業界に押し寄せています。AI、機械学習、データ分析、IoT……これらをどう取り入れるかが、業界全体の生き残りを左右する時代に突入しました。
原材料の調達:「お菓子の種」を求めて
お菓子製造を大きく分けると4つの機能に分けられます。
まずお菓子の基本、それは原材料の調達にあります。
お菓子の「菓(か)」という字は、もともと「果実の種」に由来しています。種をすり潰し、煮詰める。そんな自然の恵みを活かすことが、古来からの菓子作りの本質でした。
新杵堂では、栗や果物、小麦粉などの原材料をさまざまなパートナーから調達しています。これは、私の祖父が大分県の臼杵で農家さんにご縁をいただいたところから始まり、私の父が愛知県岡崎市出身ということで新しい農家さんとつながることができたこともあり、今では多くのパートナーのみなさんから安定した仕入れが可能となっています。
このご縁には感謝しかありません。
私たちが届けたいのは、ただのお菓子ではありません。
「一口で笑顔になれる、最高の一瞬」です。
そのために、最高の材料を探し求める旅は、今も続いています。
製造:職人技とAIが織りなす新しい未来
私の父や祖父が働いていた時代、お菓子作りは文字通り「朝から晩まで」の重労働でした。朝早くに起き、夜中まで働く生活。幼い頃、それを見て育った私は思いました。「この働き方は未来には続かない」と。
だからこそ、私は大きな決断をしました。工場の機械化に5億円という当時の新杵堂では考えられないような莫大な投資を行ったのです。最初は不安や反対の声もありました。「機械で作るお菓子に、伝統の味が出せるのか?」そんな声も聞かれました。
しかし、私の答えはシンプルでした。「お菓子業界の未来のために、変わらなければならない」と。
現在、新杵堂では製造工程のほとんどが自動化されています。
この機械化によって、地元の主婦のみなさんなどが重労働でなくても働ける環境を整えました。一方で、重要な工程では職人の技術を活かしています。人と機械が共存することで、これまで以上に高品質で大量のお菓子作りが可能になったのです。
品質管理:7500本のロールケーキを破棄した理由
どれだけ製造が効率化されても、品質を守るのは「人間の五感」です。お菓子作りにおいて妥協は許されません。それを象徴する出来事がありました。
ある日、工場で作った7,500本のロールケーキが品質基準に達しないとして、全て破棄されました。約1,000万円の損失です。責任者からの電話で「この品質ではお客様にお届けできません」と告げられた時、私は迷いませんでした。
「新杵堂の名前にふさわしくない商品を出すくらいなら、全て破棄してやり直そう」
その決断は苦しいものでしたが、ブランドの信頼を守るためには必要でした。このエピソードは、私たちの「品質第一」の姿勢を象徴しています。
販売:岐阜の小さな和菓子屋が世界へ挑む理由
新杵堂は岐阜県中津川市で始まり、かつては地元のお客様が主なターゲットでした。しかし、今では世界33カ国に商品を届けています。これはDXの力なくしては実現できなかったことです。
AIを活用したカスタマーサポートを導入し、英語、韓国語など多言語で24時間対応を可能にしました。さらに、テレビショッピングを通じて、シンガポールやカナダなど海外市場への進出も果たしました。この仕組みにより、地元の店舗に来ることができない世界中のお客様にも、私たちのお菓子を届けられるようになったのです。
変化を恐れない――それがDXの真髄
DXとは単に新しい技術を導入することではありません。それは「変化を恐れずに受け入れる力」だと私は思います。お菓子業界は伝統を重んじる分、変化に対して慎重になりがちです。しかし、変化しなければ、未来はありません。
かつては30年に一度の変革が必要と言われたこの業界も、今では毎月のように変革が求められています。システムの更新や人材の再配置には、戸惑いや衝突もあります。それでも挑戦を続ける理由はただ一つ。お客様に最高のお菓子を届けるためです。
「変わらないことを選ぶのは、実は一番リスクが高い。」
私たち新杵堂は、変化を恐れず挑戦を続けます。そして、あなたの挑戦も応援します。お菓子を通じて、世界に笑顔と驚きを届ける。それが私たちの夢であり、使命です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
新杵堂グループ代表
田口和寿
よろしければ、ポッドキャストもお聞きください