人が集まる仕掛けをつくり 場所をメディア化する─小山薫堂 (下鴨茶寮 主人)
京都大学平田晃久研究室と京都の建築学生,新建築社で,建築学生のための拠点づくり「北大路プロジェクト」をスタートさせました.その思考を広げるため,学生によるさまざまな専門家へのインタビューを行い,連載として紹介します.
第5回は京都市左京区にある1856年創業の老舗料亭である下鴨茶寮の改革に携わり,主人となられた小山薫堂さんにお話を伺いました.放送作家や脚本家,イベントや商品のプロデュースなど,多岐にわたる仕事を手掛けられている小山さんと,これからのおもしろい場のつくり方について議論していきます.
インタビューの聞き手は,平田晃久さん(京都大学 准教授 ※),大須賀嵩幸さん,志藤拓巳さん,吉永和真さん(京都大学 平田研究室M2 ※),関川圭基さん(同M ※1),髙野麗さん(京都女子大学 B3 ※),萬喜亮太さん(京都工芸繊維大学 B2 ※). ※所属はインタビュー時のもの.
目次
●京都は日本のショールーム
●「和」のあいまいさの中で
●場所がメディアになる時代
下鴨茶寮にて行われたインタビューの様子.左から小山さん,萬喜さん,関川さん,志藤さん.(撮影:吉永和真/平田研究室※ )
京都は日本のショールーム
──小山さんは,どのような経緯で京都での仕事を始められたのでしょうか.また,京都以外でも全国各地で仕事を手がけられていますが,京都という土地をどのように捉えられていますか.
小山 私の祖母が貸衣装屋をしていたのですが,祖母が衣装を仕入れるために西陣へ行くのに着いて,子どもの頃から京都にはよく遊びに来ていたので,その中で京都への愛着が自然に育まれていきました.
京都の友人も多くでき,それが後に仕事にも繋がるのですが,やはり京都という都市のブランドは強力だと思います.他の都市にはひとつくらいしかないような観光資源や文化財が,京都にはたくさん点在していて,他の都市に比べてアドバンテージがあるのです.
そもそも,かつて京都に都があっていろいろなモノや人が集まり,今の京都の文化が形成されているのですから,そのお返しとして京都は「日本のショールームになる」くらいの気持ちでやっていかなければならないでしょう.つまり,京都という都市の価値は京都の人のためのものだけでなく,日本人みんなのものだと考える必要があるのではないでしょうか.
私が下鴨茶寮に携わる少し前に,世界経済フォーラムのダボス会議という,世界中の政治家や実業家が一堂に会して討議を行う年次総会で,日本の主催するパーティーの企画を担当しました.そのパーティーは毎年各国が独自のおもてなしを持ち回りで開催するものなのですが,私が企画・プロデュースを担当した「JAPAN NIGHT 2012」では,日本の和食を前面に押し出しました.
その結果,これまでの世界中のどの国のパーティーよりも今回のJAPAN NIGHTが好評だったのです.
その様子を見て,和食というのはこれから日本が世界で勝負していく時のひとつの武器になると確信しました.ちょうどその時に下鴨茶寮のお話をいただいたので,和食の総本山とも言える京都で,世界へアピールしていく拠点としての料亭改革に取り組むことにしました.
「和」のあいまいさの中で
──下鴨茶寮での改革では「和える(あえる)」というテーマを掲げられています.これはどのような考え方なのでしょうか.
小山 5代目女将からの依頼を受けて下鴨茶寮の経営を引き受けることになり,まず和食とは何か,和とは何かを考えることから始めました.日本という国が辿ってきた歴史や日本の文化のつくられ方に注目してみると,日本はオリジナリティというよりはさまざまな国の文化を持ってきて和えることで新しい文化をつくり出すことをしてきたことに気付きました.
「和」という文字には「あえる」以外にも,「なごませる」,「やわらげる」などさまざまな読み方や意味がありますが,そういったあいまいさがあるところが日本の魅力なのではないでしょうか.そこで下鴨茶寮では,料亭だからこれしかやらないと決めつけずに,非常にあいまいな中でいろいろなことに挑戦していくことを目指しました.私たちが普通料亭ではやらないような,あんパンの製造や調味料の販売に力を入れて取り組んでいるのにはそういった背景があるのです.
吉永 下鴨茶寮では,さまざまな分野の著名人を招待してトークショーやワークショップを行う「下鴨文化茶論」を開催されていますが,他者との和を大切にする取り組みが興味深いです.実際に人を巻き込む時には何が大切なのでしょうか.
小山 人を巻き込む時のポイントは,巻き込まれる側のメリットを考えてみることです.
世阿弥の言葉に「離見の見」というものがあるのですが,これは能楽で演者が自らの身体を離れた客観的な目線を持ち,あらゆる方向から自身の演技を見る意識をすることです.まさにその意識で,つまり,もし自分がこの企画に関わっていないとして,そのイベントや場所を自由に使ってもよいとなった場合に何をするとおもしろいかを考えてみるとよいのです.
みなさんでしたら,この「北大路プロジェクト」の場所にどうやったら参加したくなるかを考えることが必要でしょうね.
志藤 日本人が元もと持っている「和」の感覚が,現代でのシェアという考え方に繋がっているように思います.
日本人は共有することに対して寛大な人が多いのではないでしょうか.
小山 日本人はこの狭い国土の中で木と紙でつくられた建物に住んできたため,常に誰かの気配を傍に感じながら生きてきた民族です.そこから日本文化や芸術の基礎になる,慮りの精神が養われたのではないでしょうか.
日本の建物にしても,縁側などの外と内のあいまいな和える場というものがあると思っていて,この「北大路プロジェクト」でも真ん中に大きな和える場所があってよいなと思います.
同じ目的を持った人たちが集まってひとつの答えを導き出すのもよいのですが,異なる意見を持った人たちがこの建物に集まって,建物がその両者を中和させるような場になっていたらもっとおもしろいですね.
場所がメディアになる時代
──メディアに関わる仕事を多数手掛けられている小山さんですが,メディアというものをどのように捉えられているのでしょうか.
小山 私はテレビやラジオ,雑誌などをずっとつくってきていて,常に情報というものはこれらメディアから外に発信するものだと思っていました.しかし,東京の六本木ヒルズのクラブのオープニングパーティーに行った時に,そこには世の中への発信力・影響力のある人やおもしろそうなことをやっている人などがたくさん集まっていて,メディアが場所に追い越されてしまったと感じました.
もはや,テレビや雑誌だけがメディアなのではなく,情報が集まりそれを発信する人がいる場所がメディアとなるのです.そこで,私はオレンジ・アンド・パートナーズという会社を立ち上げ,場所をメディア化するような企画を考えるようになりました.
先ほどの下鴨茶寮の話にも関連するのですが,私はただ料亭をやりたかったというわけではなく,料亭を何か情報を発信する拠点にしたり,そこに関わっていることを武器としてさらにいろいろな人と繋がることができるところに魅力を感じたのです.
実は私も学生寮の企画を考えています.そこでは7人の理事がパトロンとなってその学生寮に住む人を選び,さらにメディアと提携して,住人にラジオ番組をやってもらうのです.少し前に若者のシェアハウス生活をドキュメントする番組がありましたが,これは番組があったからこそあの暮らしが成立し,なおかつ若者たちの注目を集めていたと思います.
メディアが情報を拡散するための道具ではなく,その場所の魅力をブランドとして定着させる囲いとして機能することができれば,若者たちの憧れになるのではないでしょうか.
平田 「北大路プロジェクト」は建築学生が主体となって始まったプロジェクトですが,最終的には建築に限らず,写真を撮っている人や絵を描いている人,彫刻をやっている人などがこの家に住んでいるのもよいと思っています.
小山 おもしろい人をこの場所に引き付けることができたら,ここが最もおもしろい場所になると思います.つまらない人をただ100人集めるのではなく,センスのよいおもしろい人を10人でも集めることが大事で,そういった人たちを集めるにはこの場所に何が必要かを考えるのが大切です.
私が思うに,まず最初の1人が大切になるのではないでしょうか.核になる人がいて,その人が誰かを呼んできて……と,どんどん繋がっていくのがよいでしょう.協力してくれるパトロンを見つけてきて,暮らす人をオーディションするのもよいかもしれませんね.
ここでの活動に参加したくなる,遊びに行きたくなるようなイメージを住み手がいかにつくるかが勝負どころだと思いますよ.
大須賀 ワークショップをしていく中で,このシェアハウスに住んでいたことを誇れるような場所にしたいという意見があったことを思い出しました.自分も訪れてみたくなるような魅力的な場づくりをしていきたいですね.
本日はありがとうございました.
(2017年5月8日,下鴨茶寮にて 文責:平田研究室)
北大路ハウスについて
北大路ハウスは建築学生のためのシェアハウスです.
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北大路ハウス
所在地 京都府京都市北区紫竹上梅ノ木町28(MAP)
最寄駅 地下鉄烏丸線「北大路駅」徒歩10分/市バス「上堀川」下車3分
連絡先 kitaoji.house@japan-architect.co.jp
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