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『新建築』6月号を評する─『新建築』2018年6月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします!(本記事の写真は特記なき場合は「新建築社写真部」によるものです)


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評者:深尾精一
目次
●城西小学校屋内運動場・幼稚園・児童クラブ
●慶松幼稚園
●むく保育園
●Fuji赤とんぼ保育園
●幼保連携型認定こども園 大阪国際大和田幼稚園
●まちのこども園 代々木公園
●認定こども園 めごたま
●にしあわくらほいくえん
●佐川町立黒岩中央保育所
●わかたけ保育園
●すばる保育園
●墨田みどり保育園分園


城西小学校屋内運動場・幼稚園・児童クラブ

城西小学校屋内運動場・幼稚園・児童クラブ
原広司+アトリエ・ファイ建築研究所

城西小学校屋内運動場・幼稚園・児童クラブは,巻頭の特集対談:環境行動から考える保育空間で語られているように,時間の流れの中で捉えることによって,その希有な存在が理解できるのであろう.
この特集でもそうであるが,50年,100年もつ建築を設計したいとする設計者が多い中で,心に刻むべき教えである.
そうした意味で,この新しい運動場や幼稚園を現時点で論評することは,ほとんど意味がない.

誌面も,育っていく樹木と30年前に建った学校を見事に捉えている.


慶松幼稚園

慶松幼稚園|原広司+アトリエ・ファイ建築研究所

慶松幼稚園は,大きな空間の中に,構造によって居場所を規定していく建築屋好みの幼稚園であろう.
有孔体の鉄筋コンクリートの幼稚園が木造のこのような空間になるとは思いもしなかった.幼稚園としては大きなスケールの中で,園児だけが通れる通り道の孔があったら面白かったのではないだろうか.


むく保育園

むく保育園|手塚貴晴+手塚由比/手塚建築研究所  大野博史/オーノJAPAN


むく保育園は文句なく楽しい建築である.円形の水遊び場も効いている.しかし,設計者本人が賛否ある円形のプランニングについて書いている解説を読むと,かえって,実際には難しいのだろうなと思ってしまう.企業主導型の保育所でクライアントの理解があるから可能なのであろうか? 
18角形から17,15,12,11,10,9,8角形と変化させているのを見ると,この架構がやりたかったのだろうな,という感想になってしまう. 


Fuji赤とんぼ保育園

Fuji赤とんぼ保育園
手塚貴晴+手塚由比/手塚建築研究所  大野博史/オーノJAPAN


Fuji赤とんぼ保育園は,同じ設計者の作品とは思えないが,そこがよいのであろう.設計が終了したのが同時期で,工事期間もほぼ同じである.多才な設計者であると言わざるを得ない.どちらも,コンセプトを実現するために,構造設計者の知恵が遺憾なく発揮されている.


幼保連携型認定こども園 大阪国際大和田幼稚園


幼保連携型認定こども園 大阪国際大和田幼稚園は,大学キャンパスと連携した施設であるためか,理由は判然としないが,この号の他の作品とはかなり趣が異なっている.
限られた敷地の中での機能のまとまりとしては応えており,構造的な工夫もなされているのであるが,図面に楽しさが感じられない.組織事務所の設計らしい,という言い方はしたくないのだが,どう考えればよいのだろうか.


まちのこども園 代々木公園

まちのこども園 代々木公園|ブルースタジオ

まちのこども園 代々木公園が,このような場所にできるとは驚きであった.国家戦略特区というのはこのようなことを可能にする政策なのだろうか.
どのような児童が通ってくるのか,興味津々である.
ただ,実際に訪れた評者が感じるそのような戸惑いは,誌面からは伝わらないであろう.建築は木造軸組で燃えしろ設計の準耐火構造であり,おおらかな気持ちのよい空間ができている.保育以外の機能でも成り立ちそうな空間構成で,こども園というよりも,大人も楽しい施設である.将来の転用を考えているのかといったら,勘ぐりすぎであろうか.


認定こども園 めごたま

認定こども園 めごたま|象設計集団


認定こども園 めごたま
は,象設計集団の遺伝子が健在なのであろう.手描きの図面も楽しげである.
四つ間取りの保育室や土縁土間の台所,そしてそれらを支える木の構造などが,地域の施設らしく,こども園の機能だけではなさそうである.ここで用いられた200年生の金山杉は幸せに違いない.
個人的には,かつての象の作品より馴染めるものであった.


にしあわくらほいくえん

にしあわくらほいくえん|三浦丈典/スターパイロッツ


にしあわくらほいくえん
は,林業の村に建つ木造の保育園であり,単なる機能が特化した保育園ではなく,地域の施設であることが,誌面からも伝わってくる.このような取り組みは,今後ますます増えていくであろう.
木材コーディネータの存在が大きいのであろうか.車寄せ機能のコモレビ広場と遊戯室が連続した架構となっているのが魅力的である.ただ,「小径120mmの間伐材」という表現が気になった.もはや間伐材を取り上げる時ではないであろう.


佐川町立黒岩中央保育所

佐川町立黒岩中央保育所|内海彩建築設計事務所


佐川町立黒岩中央保育所
は,木の架構が楽しげな幼稚園である.ここで育ったことは,園児たちの原風景として残るに違いない.が,なによりも素晴らしいのは,町として取り組んでいるこれからの林業のあり方と一体化した計画ということである.町長のおっしゃる「まじめに,おもしろく」こそが,地域を引っ張り,このようなおもしろい保育園を生み出すのであろう.


わかたけ保育園

わかたけ保育園|篠計画工房


わかたけ保育園は,木造のよさを活かした典型的な保育園である.
合板を用いずに,木の素材としてのよさを引き出すための,さまざまな工夫が凝らされている.設計者の努力に敬意を表したい.ただ,「たたみの部屋」が耐火建築部となっているのはいかがなものであろうか.「畳の部屋」ではないということなのか.
現状の法規制の中で,鉄筋コンクリートの耐火建築物を挟む手法は珍しいものではなくなったが,木造の耐火建築物で内装制限を逃れていることが意欲的である.架構の一体感が生まれ,ひとつの方向であろう.しかし,法規への適合ではなく,本質的に安全な建築とはどのようなものかを,建築界全体で追求すべき時期ではないだろうか.


すばる保育園

すばる保育園|藤村龍至/RFA+林田俊二/CFA


すばる保育園は,平面図から想像する形態と写真から受ける印象の違いに驚かされる.広角レンズのせいだけでもなさそうであり,実際に訪れてみたいと思わせる建築である.
プランニングは,壁の曲線と開口の曲線がつくり出す空間の位置付けが明快で,構造計画的にも上手いのであろう.ホールの構造を導くプロセスの解説を読むと,この建築に込められた設計の密度には感心せざるを得ない.ただ,地熱利用などの先進的な技術を導入し,ZEB化を図るという建物で,180mm厚の広大なコンクリートスラブというのは,熱を貯め込むという点で問題はないのであろうか.どのような音響空間になっているのかということも体験してみたい.


墨田みどり保育園分園

墨田みどり保育園分園|石原健也+デネフェス計画研究所


墨田みどり保育園分園
は,都市型の保育園であり,このような保育園の建設が,今,真に求められているのであろう.厳しい敷地条件から生まれた回遊スロープが楽しそうである.上階部分の将来のコンバージョンへの配慮なども,これからの都市型施設に求められることであろう.そのためには,3,000mmという階高が少し気になった.


保育園・幼稚園特集と聞いて,近年の傾向から,もう少し木造の園舎が多いのかと思っていたが,構造計画としても多様な特集になっていた.建築の面白さ・楽しさを追求した作品が多かったのは,好印象であった.



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