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母はなぜ入水したか 『水で書かれた物語』(1965年、吉田喜重監督)レビュー


 『水で書かれた物語』(1965年)は石坂洋次郎の同名小説を吉田喜重監督がメガホンを取って映画化したヒューマン作品です。母子相姦が題材となっています。吉田監督の妻で女優の岡田茉莉子さんが母役を演じています。

↓以下ストーリーです。ネタバレを含みます。

 平凡な銀行員である松谷静雄(入川保則)は、優しかった父(岸田森)を肺の病気で亡くし、美しい母・静香(岡田茉莉子)と二人暮らしを続けてきました。母は琴曲の師匠をして生計を支えていましたが、父が生きていた頃から町の権力者である橋本伝蔵(山形勲)と不倫関係にあります。

 静雄はそんな母の行動を覗き見つつも、母を憎めないでいました。そればかりか、母に女性的な魅力を感じ、強い下心まで抱いています。ある日、静雄は母の不倫相手の伝蔵から、彼の娘・ゆみ子(浅丘ルリ子)との結婚を勧められます。伝蔵は母と静雄が暮らす家を提供していたほか、静雄の就職した銀行も紹介してくれていました。今度は娘を自分に嫁がせようというのです。

 静雄は、実はゆみ子と自分は異母兄妹なのではないかという疑いを持っていました。自分は父の子ではなく、実は伝蔵の子ではないか。だからこそ伝蔵は自分の人生にこんなにも手を差し伸べてくれるのだ……。母にこの疑惑を問いただすと母はこれをきっぱり否定します。疑惑の晴れた静雄はゆみ子と結婚しますが、その後、母の言葉に疑いを持ち始めます。

 ゆみ子はそんな話など何も知らず、なかなか自分を一人の女性として愛そうとしない静雄に不信感を抱いています。静雄のマザコン的な性格にも焦ったさを感じています。静雄はやがて、苦悩の中、突然仕事を辞めてしまいます。母の元を訪ねると、母親に自分の思いを伝え、母と体の関係を持ってしまうのです。絶望的な気持ちを抱えて母に一緒に死のうと申し出る静雄ですが、母は翌日、苦しむ静雄の思いを解き放とうと、伝蔵を湖に連れ出し、伝蔵と無理心中自殺を図るのです……。

 静雄の母への思いが“水”をうまく使って表現されており、映画を見終えた後に、不思議な余韻が残ります。全編、モノクロで撮られており、生々しい前戯を含むベッドシーンなどは一切出てきません。幻想感のある映像美と相まって、まるでおとぎ話のように母と息子の禁じられた物語が進行します。母役の岡田さんと息子役の入川さんは実際には年がほとんど変わらなく、そこに違和感を感じる以外はとてもいい映画だと思いました。

 吉田監督は本作について「映画のテーマは『近親相姦』、母と息子の近親相姦を描いています。しかし、ギリシャ古典劇のように、ある程度抽象化して描いていますから、生々しい表現にはなっていません。近親相姦を具体的に見せるのではなく、『なぜそうならざるを得なかったか』を観客に読み取らせる、観客の想像力に賭けたのです」と話していたそうです。兄妹、姉弟の恋を描く映画はたまにあれど、母と息子の禁断の愛を描く文芸作はあまりないので、貴重な作品だと思いました。

(了)

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