花譜 「狂想」 全曲レビュー/狂おしいほどの想いが、零れぬように。
こんにちは。桜小路いをりです。
今回の記事は、神椿のバーチャルシンガー・花譜さんの3rdアルバム「狂想」の全曲レビューです。
全曲の作詞作曲をカンザキイオリさんが担当されており、「狂想」というタイトルの通り、狂おしいほどの想いが溢れた作品になっています。
ぜひ最後までお付き合いください。
「そうぞうりょく−Instrumental−」
鐘の音から始まり、美しいコーラスで展開していくアルバムの序章。
何かが始まる予感、神聖で厳かな雰囲気の中に、どこか切なさや悲痛さも感じます。
このアルバムがもつ世界観、そこに描かれた景色の中に、ゆっくりと誘われていくような。
そんなインストロメンタルです。
「海に化ける」
カンザキイオリさん×花譜さんの「過去を喰らう」から始まる3部作の2作品目。
前作「過去を喰らう」から、もう一段成長して、「これはこうだから」と、自分なりに感情や想いに理由をつけられるようになった歌詞が印象的です。
衝動的に喰らい尽くした過去で膨らんだ自分を、どこか冷静に見つめる視点で描かれた言葉。
でも、まだ大人になり切れない自分の断片。
この曲を聴くたび、言葉にならない想いの欠片が次々に心に浮かんできて、鈍くきらめくような気がします。
そのときのチクリとした痛みも含めて、私はこの曲が大好きです。
「人を気取る」
カンザキイオリさん×花譜さんの「過去を喰らう」から始まる3部作の最後の作品。
ぐちゃぐちゃの感情をひたすら叩きつけるようだった「過去を喰らう」。
少し大人になって、でもそれすら苦い「海に化ける」。
そして、「あなたがいない人生」を強く抱きしめるような、生きていることそのものが輝いて見えるような「人を気取る」。
いい意味で綺麗すぎない、荒削りで、磨いている最中の宝石のような美しさを、この「人を気取る」は纏っている気がします。
「さよならの味」を感じるということは、この曲の「僕」は確かに生きていて、その味に「生」を感じながら、これからも生きていくんだろうな。
そんなことを、思わず感じてしまいます。
「春を発つ」
花譜さんの声が、心の弱いところに直接沁み込んでいくような気がして、私はこの歌詞が大好きです。
「春」って、穏やかで暖かくて、一種のモラトリアム的な時間だと思います。
そこから出発していくときは、すごく怖くて、不安で。でも、この曲を聴いたら、背中にそっと寄り添ってもらえるような気持ちになれそうです。
ちなみに、この曲には花譜さんの音楽的同位体の可不ちゃんが歌うバージョンもあります。
可不ちゃんの声で聴くと、広い世界に旅立っていく花譜さんを応援しているようにも聞こえる1曲です。
「未観測」
「不可解」のアンサーソングのような「未観測」。
この曲は初めて聴いたとき、本当に泣きそうになりました。
剥き出しの生々しい感情を、熱っぽく歌い上げる花譜さんの声がとても素敵。
特に、「されど おいそれとくたばらぬ」「されど むざむざに死にはせぬ」と歌うときの声が好きです。きっ、と瞳に強い光が宿る瞬間まで思い描けるような、凛とした意志を感じる歌声で。
花譜さんって、すごく「可愛い」というイメージが強いシンガーさんだと思います。
だからこそ、花譜さんの強気な意志を感じる歌は、聴くとすごくドキッとして。そんなところも、すごく好きです。
「世惑い子」
「好きなことを好きと言っていいんだよ」という優しい歌詞が印象的な、「世惑い子」。
ひたむきに言葉を積み上げて、重ねて、語りかけてくれる花譜さんの声に、胸の奥が熱くなります。
つらいとき、苦しいとき、きっと心の支柱になってくれるような。
頼もしくて、あったかくて、柔らかい。
そんな楽曲です。
「ニヒル」
イントロの音色から既に、その世界観に引きずり込まれるような「ニヒル」。
疾走感あふれる曲に合わせて、感情を叩きつけるように歌う花譜さんの声に、聴くたびにはっとします。
花譜さんは、「年齢を重ねていくバーチャルシンガーさん」です。だからこそ、その歌声はどこまでも等身大に映って、バーチャルな存在でありながら親近感が湧く気がします。
「不可解」で「お金とかビジネスとか効率とか そういうことじゃない」と歌っていた花譜さんが、「我儘でもいいだろう? エゴばっかりでいいだろう?」と歌うことに、なんだか胸がいっぱいになります。
「あるふぁYOU」
「あるふぁYOU」は、幻想的な囁くようなパートと、張り詰めた高音のパート、掛け合いを重ねるようなパートの移り変わりが印象的。
それぞれがそれぞれの雰囲気を引き立て合って、得も言われぬ感動を織り成しています。
ここの歌詞、狂おしいほど大好き。
この曲に限らず、「狂想」というアルバムを聴くたびに「カンザキイオリさんの言葉が好きだ」と痛いほど実感しています。
花譜さんとEMAさんの歌声が素敵な、こちらのMVもぜひ。
「それを世界と言うんだね」
たくさんの物語を結んで、繋げて、ひとつの「世界」を創り上げた1曲。
綾崎隼さんの、この曲をもとにした『それを世界と言うんだね』という小説も発売されました。
ひとりの小説を書いている物書きとして、たまらなく感動的な歌詞が詰まっていて、本当に本当に大好きな曲です。
私は、もの書きに行き詰まったとき、よく聴いています。
不思議と呼吸が楽になるような、深い包容力のある楽曲でもあり、その温かさに何度助けられたか。
これからも、私にとって大切な曲として、ずっとそこに在り続けてくれるような気がしています。
「例えば」
深いブレスの音から始まる、疾走感のある楽曲。
個人的には、電車の中で聴くのが好きです。
「春風を知った雪雲も」というフレーズ、カンザキイオリさんのセンスがきらりと光っていて、聴くたびにドキッとします。
厭世的な雰囲気がほんのり残っているのに、諦められない、諦めたくない、生きていたいという想いが随所から感じられる曲、でも最後に歌われるフレーズは「君が笑ってくれれば 僕は溺れたままでいい」。
叫ぶような歌声とそのメッセージが、鋭く胸を貫くような1曲です。
「青春の温度」
「例えば」との繋がり方がとても好き。1個前の曲の余韻と、次の曲の最初の1音との繋がりまで味わえるから、私はアルバムという作品が好きです。
「例えば」が鋭く胸を貫くような曲ならば、「青春の温度」は心臓をぎゅっと掴んでくるような曲。
澱のようにどろどろとした、掴みどころのない思春期・青春時代の感情が、爽やかなロック調の曲にのせて歌われています。
可不ちゃんバージョンもとても好き。
カンザキイオリさんの言葉って、本当に何と言うか……胸に迫ってきます。
聴いたら最後、もう聴く前の自分に戻れない。そんな曲のように思います。
「裏表ガール」
バーチャルシンガーの「花譜」としての花譜さんと、まだ「花譜」になる前の花譜さん。
そんな「ふたり」の少女を「大切な裏表」と表現しているような。私は、そんな曲に感じました。
人間なら、誰しも表の顔がきっとあって、表があるなら当然、裏面もある。
でも、そのどちらかが必ず「嘘」になるはずはなくて、きっとどちらにも「本当」があって、そのどちらにも、私にしかない、あるいは、あなたにしかない温もりがある。
この歌詞を思い出すたび、どんな自分も肯定できる気がします。
「狂感覚」
胸の内を独白するような、世界の優しくない一面に対して言い募るような。
痛みや苦しみに沁み込んでいくような曲と、花譜さんの柔らかくも凛とした声が本当にぴったりです。
いつか、「不可解」という楽曲で「そういうことじゃないでしょう?」と必死に叫んでいた「お金とかビジネスとか効率とか」に対して、「それがないと生きられない」とまで言っているこの曲。
ほんの少し寂しくもあり、虚しくもあり、けれど、そこに確かなひとりの「人間」の成長を感じてしまいます。
どこかで妥協することが、きっと大人になるということで、でも、それとは別に、どこかに真に譲れない何かを見つけることもまた、大人になるということなのかな、と。
私は、この曲を聴いてそんなふうに思いました。
「邂逅」
絞り出すような花譜さんの歌声と、痛いほど切実な歌詞の数々。
何もかもが目まぐるしく変化する「今」、この曲を紡ぐもののひとつひとつが、どうしたって胸をこじ開けて、どろどろした感情を引きずり出してきます。
きっと、毎日のように聴くわけではない。
でも、本当に心がいっぱいいっぱいになったときに、そのぎりぎりの隙間に流し込めて、心の温度を保ってくれるのは、きっとこの曲なんだろうなと思います。
「あなたをあいしてる−Instrumental−」
ひとつ前の「邂逅」では、「世界平和なんて嘘だ 皆一人ぼっちだ」と歌われていましたが、それに対して、このインストロメンタルは、「あなたは一人じゃない」「少なくとも『私』は『あなたをあいしてる』」と告げるような1曲。
聴き手を、優しく、温かく包み込むような終章で、狂おしいほどの想いを叫ぶ「狂想」は、ゆるやかに幕を閉じます。
まとめ
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
この「狂想」が、私が初めて買った神椿のバーチャルシンガーさんのCDでした。
贅沢な特典の数々と共にCDを開けたとき、なんだか無性に感動したことを、まだ覚えています。
というのも、花譜さんは、いつもバーチャル空間から歌を届けてくれるシンガーさんだからです。
花譜さんの歌を聴くのは、いつも、YouTubeか配信サイト。
でも、CDで我が家にお迎えしたことによって、花譜さんの歌が、想いが、バーチャル空間と現実との境を越えて、私の手に遥々来てくれたような気がしました。
もちろん、私はもとからCDが好きなのですが。
関わった方々の想いがぎゅっと詰まったこの作品を、「手に取る」ことができて、本当に嬉しかったです。そしてより一層、「CDっていいな」と思うようになりました。
花譜さんの歌声って、なんというか……「表現したい気持ち」や「表現したい衝動」にすごく共鳴するお声だなと感じます。
このアルバムは今年の3月にリリースされたのですが、初めて聴いたときの感動、この曲たちの鮮明な輝きをどうにか言葉にしたい……と吟味し続けた結果、このような記事になりました。
聴くたびに色々な面を魅せてくれて、聴くたびにそのときの気持ちにぴったりの言葉が心に残る、魔法のような作品なので、その魅力が少しでもお伝えできていたら嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 私の記事が、皆さんの心にほんのひと欠片でも残っていたら、とても嬉しいです。 皆さんのもとにも、素敵なことがたくさん舞い込んで来ますように。