舞台「ふるさとの唄」感想2

この作品は、無名兵士たちのある心の叫びを掬い取ろうとしたものであると同時に、
ほかでもない、戦場となったこの島に生きていた人々の物語でもある。

難渋を極めた撤退戦のさなか、これも本隊とはぐれてしまった、ひめゆり学徒隊の2人は、
件の少尉に率いられた日本軍に出会い、この地下壕に逃れてきた。

そして物語は、主にこの2人の視点から語られてゆく。

今で言えば、高校生くらいであろうか。
これほど、未来への希望に満ち溢れている年ごろもあるまい。

また、弟を目前で亡くして精神に異常を来した孫の少女を見つめる老夫婦の慈愛も、

最後まで義務を全うしようとする従軍看護婦2人の内面に押し籠められている、
うら若い、生への渇望も、

故郷を襲った「鉄の暴風」は、すべてを跡形もなく奪い去ってゆこうとするのである。

その予感を感じつつ、必死に生き抜こうとする姿は、身を捩りたくなるほどの悲しみとして胸に迫った。

「沖縄戦」に関しては書物や映画、ドラマ等、いろいろと見てきたが、舞台演劇として観るのは初めてであったせいもあろうか。

生身の人間が目の前で、理不尽きわまりない運命に抗いつつ、「生きたい」という、
声にならぬ叫びを私に突き刺してくるかのようであった。

死者の魂を眼前に見るような、私にとって非常に厳しい体験であった。

演劇というものの力であろう。

時代は流れ、昭和の大戦も遠い記憶になりつつある。

今の世に、あの時代を忘れることなく、
戦争とはこうであったと決めつけることもなく、
そのときをただ精一杯に生きていた人々の
「記憶」を呼び覚ますこころみとして、

この作品に結集したすべての皆さんの、その志をこそ、私は多とするものである。

〈了〉

舞台は終演しましたが、アーカイブ配信があります。予約は10/15まで下記にて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?