新城勇の断片記2

先日、戦争を舞台とした演劇「ふるさとの唄」の感想を書きました。

また最初の「断片記」に、直近の私の出演作品を記しましたが、そのいずれもが日本の「歴史」に関する作品です。

過去の出演作品も振り返ってみると、やはり歴史劇が多い。

決してそういう仕事だけを選んでいたわけではないのですが、これにはやはり私の俳優としての出発点、また個人的な興味、関心が深くかかわっているのではないかと思います。


私は小学生のころ学校の図書室に入り浸って歴史に関する本を借りまくる少年でした。

私は当時、歴史を物語として、単純に娯楽として読んでいました。

小学館のシリーズもので、歴史上の偉人、有名人の伝記漫画、日本史や世界史の通史漫画などがありますが、それが出発点ですね。

(今はどうか知りませんが当時、小学校の図書室にある漫画といえば、小学館の歴史ものと「はだしのゲン」くらいでした)

私の家のお小遣いは必要最小限だったので、「ジャンプ」など当時クラスメートのあいだで絶大な人気のあった週刊マンガ誌は買えず、もっぱら図書室の漫画などを読み漁っていたわけです。

小学校中学年くらいからは、活字の本で小学生向けの歴史の本を読むようになり、それに飽き足らず、父の書棚にあった司馬遼太郎、池波正太郎などの歴史小説や時代小説にも親しむようになりました。

しぜん私は、歴史という壮大なドラマに惹き込まれていったのです。

時代劇やNHK大河ドラマなども大好きでした。
そのあたり、後に俳優をやる下地があったと言えます。

決定的だったのは、小学6年生のとき、学校に新設された視聴覚教室を使って担任の先生が毎週土曜日に企画してくれた名画上映会。

その一回めが、黒澤明の「影武者」でした。

それまで親しんでいたNHK大河ドラマや、年末年始の民放でよくやっていたスペシャル時代劇などとは全然違う、

絢爛たる絵と音、細部まで徹底的な拘りを感じる演出、そして、あたかも歴史の現場を目前にするかのような「リアリティ」が私の脳髄を直撃しました。

「これだ、こういう映像が観たかったんだ」

幼い私は確信しました。

そのあとしばらく、司馬遼太郎の「関ヶ原」を読んでも、池波正太郎の「幕末新選組」を読んでも、脳内で黒澤明風の映像で再生されるような感じでした。

いつしか、自分が作品中の好きな登場人物になりきり、歴史のなかで躍動することを妄想しながら、歴史小説を読み、歴史ドラマを観るようになりました。

少年の日のこれが、一つの原点になったということは間違いありません。


さて、中学、高校と進学するにつれ、私は段々と学校そのものに馴染めなくなっていきました。それにともなって、学業も不振を極めていました。

国語と地理・歴史関係だけはつねに成績が良かったのですが、これは自分の興味にもとづいた読書で得てきた知識がモノをいっただけです。

ただ身体はそれなりに鍛えていました。
「十代の鍛錬が生涯頑健な身体を作る」が持論の父親に運動部を強制されたこともありますが、

私も幼いながら何故か、人生まず体力が第一に重要だと思っていたので、小・中・高と、あるていど厳しい練習をする運動部に属していました。

それでも私の学校ぎらいは年々つのっていき、高校時代など、自分としてはやめる一歩手前でどうにか踏みとどまっている感覚でした。

勉学も人並みの青春も放擲して、段々と心が閉じ籠りがちだった高校時代、興味があったのはプロ野球、好きな女子(コミュ力皆無のためつねに成就せず)、飼い猫のミー(私が拾ってきたサビ猫)のほかには、

冷戦構造崩壊など激動の世界情勢に刺激されて、図書館で借り、また父の書棚から引っ張り出してくる政治、歴史、文学関連の読書。

「国とは、戦争とは一体何なのだろう、人間とは、私とは一体何者なのだろう」といった素朴な疑問と悩みが頭のなかに渦巻いていました。

思春期にそのような薄気味悪いことを年中考えていた私が、決して進学校とは言えない田舎の公立中学、さらに偏差値中の下くらいのちょいワル高校で青春まっただなかのマジョリティに馴染めるわけがありません。

興味のあること以外どうでもいいという傾きのあった私は、そのままだと孤立して居心地が悪いので周囲とはテキトーに調子を合わせていました。

ただ完全には合わせきれず、時には人から遠ざかる孤独癖があったので、周りからは、ネアカなのかネクラなのかよくわからない変な奴だと思われていたでしょうね。

そのような私が学校ぎらいになっていくのも必然的でした。

ただ私の興味、関心をもって学業に専心努力すれば、それは大学において学問として昇華できたのかもしれませんが、

果たして「英語」がまったくできない、分からないという私の偏向性が炸裂し、大学受験は惨憺たる結果に終わりました。

当時、もし大学受験が駄目だったら、ずっと興味を持っていた自衛隊に入るか、もしくは幼い日の憧れ「俳優」への道というのも、頭の片隅にはありましたが、

まだ、私は進学を完全にあきらめるという決断はできませんでした。

そこから、私の紆余曲折が始まるのですが、長くなってしまったので、今回はこのあたりで。

〈続く〉

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