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最近の授業 3年生「ふるさとをパッケージング!」



美術の力で地域活性化に貢献できるのか?

美術の授業って、美術室でただ黙々と作品を制作する時間ではありません。中学校になるとARTとDESIGNを一緒に学ぶことになります。美術と社会との関係について学ぶこともしています。
いろんな大人に「過去受けてきた美術の授業」のことを聞くと、「ずっと絵ばかり描いてきた」「ひたすら手を描かされた」という話が出てきます。こうした体験もあり、どうしても「絵が上手くなること」、「上手くつくること」という印象が強く残ってしまうのではないかと思うのです・・・。
美術室で考え作品を制作しているのですが、今学んでいることが社会と接点があるのか、自分の生活にどう生かされるのかを知ることが大切だと考えています。
中学生の授業だから、まだ子供だから・・・とかそういうのではなく、自分たちが学んでいることが社会とどう繋がるか、実際にどういう手順で展開していくか、デザインした「その先」にどんなことが起こるか、を知ることもとっても重要だと思うのです。今回の授業では「美術の力で地域活性化に貢献できるのか?」という問いを持ちながら授業を行いました。

授業の実際 〜タイムマネジメントは生徒自身で〜

3年生のデザイン課題は、美術の力(ここでは伝達に関する資質能力)を高めるのはもちろんですが、美術と社会の関係について学ぶ授業に取り組んでいます。
生徒が暮らす地域の「新たなお土産」を開発し、そのパッケージを生徒自身が設定したターゲットに向けてデザインするというものです。
全8時間の構成で、導入(課題を把握するところ)と最後のプレゼンは全員一斉にやりますが、それ以外は自分のペースで行えるようにしています。
やるべきことは、以下の事柄。

  1. 自分の会社を起こす設定で、会社のロゴマークを制作する。

  2. ターゲットを考えて、商品のパッケージデザインを制作し、実際に形にして示す。

  3. リサーチを含め客観的な視点からアドバイスをもらい、よりよいデザインにするために思考する。

  4. 自分の商品をプレゼンテーションする。(造形的な視点をもとにターゲットとデザインの工夫点を明らかにすること)

振り返りシートの例

以上のポイントをおさえれば、8時間分は自分で好きなようにタイムマネジメントできるようにしています。(これがいいかどうかは別として、写真のようなシートで実験的にやってみてます)
目安時間はこちら側で設定したものです。全体でリサーチを共有する時間、アイデアスケッチを見合う時間は教師側で設定しています。それ以外は、自分のペースで学ことができます。鑑賞や制作は常にぐるぐると往還していますので、こちら側で強制的にみんなが同じ活動をするのではなく、自分で必要な活動を考えて進めていくような授業に挑戦してみました。最近のキーワードは、「個別最適な学び」。与えられた課題を教師の言う通りにこなすのではなく、生徒自身がどれだけ自分ごととして課題を見つけ、どう解決していくか・・・。自分の学びを自分で調整していける人を育てる狙いもあります。

デジタルで試行錯誤をし、実際に印刷して確認している様子

アイデアスケッチは手描きかタブレットか

これまでのパッケージの授業は完全アナログでやっていました。GIGAスクールで一人一台タブレットがある今は、ほぼほぼデジタルで制作しています。なんといっても試行錯誤がしやすい!これが一番の理由です。もちろん、手描きでやりたい生徒もいますのでそこは各自で選択させています。
上の写真の生徒はデジタルで制作しています。ずっと画面上で「情報」をいじくりまわして編集するのではなく、形に起こして手に取って観察する。誰かと一緒にみてアドバイスもらう、また調整する。こうした鑑賞と表現のサイクルをグルグル回しながら情報を編集する力を高めていくという構成です。

スケッチブック、クロッキー調などみなさんどうしてますか?最近は、タブレットを用いてデジタルのポートフォリオを作成する機会が増えたのでスケッチブックに描き込む頻度が減ってきています。GIGA端末がどのようなものか、ということにも関連してくるのではないかと思うのですが・・・・。本校ではHPのノート型のタブレットです。iPadに比べるとクリエティブなことを苦手としている機器かもしれません。他県の実践を見ていると、iPadでアイデアスケッチをガンガン描いて交流している、、、なんてこともありますが。入っているソフトにも起因してますね。これに関しては完全に個人の感想です。
結論、本校ではスケッチブック等にリアルに描く方が圧倒的に多い状況です。どちらを使ってもいい環境ではあるのですが、生徒の活動を見ていると紙に描く方がより自由度が高い印象です。


アイデアスケッチ1
アイデアスケッチ2
アイデアスケッチ3

題材を自分ごとにするには・・・

パッケージの授業をしたことがある人は経験したことがあるかもしませんが。
商品を考えるのに多くの時間を費やしてしまう問題です。商品の幅を広げてしまうと何でもありになってしまい収拾がつかない。重要なのは、この題材で身につけさせたい力は何か、ということです。伝達における発想や構想の能力を高めるねらいがあり、さらに地域のリソースを見つめ直し、美術の力の可能性を感じるというものです。「自分の商品でこの地域を立て直すんじゃ!」くらいの意識で取り組んで欲しいわけです笑。
ポイントは、地域の現状を把握すること。そこに問題があり、解決したいと思わせる、ということ。ネットのお土産サイトを見て、実情を知るのです。「ちょっとダ○いね」とか発言として出てくるんですが、これが「課題意識」なんだと思うのです。じゃあ、どうすれば買ってくれるの?どんなデザインにしたらみんなの興味を引くの?という流れから授業がスタートしていきます。

生成A Iを活用し、考えてもらいたいことに集中させる

先にも書いたように、お土産の内容を決める際に「限定」する場合と「ある程度の自由度を持たせる」場合があります。美術の課題ですので、ある程度「限定」した方が時間的な面でもねらいに迫る点でもいいのですが、その線引きがなかなかと難しいと思います。
今回は、「大仙市中仙地域」という地域に限定しているため、お土産の種類も狭まってきます。事前にお土産サイトを見たり、地域の特産品など出し合う活動をして、「枝豆、お米、お酒、トマト、桜」などと言うキーワードが出てきました。このキーワードをもとにしてお土産を発想していく事にしました。
明日程度の方向性が見えた生徒には、商品の発想を助けるために生成AIを活用しても良いことを伝えました。マイクロソフトにあるCopilotを使用しました。プロンプトに地域のことや商品のことを打ち込み、他にも案がないか聞くのです。
「プロンプト:秋田県大仙市中仙地域のお土産を開発してください。主にトマトを使った商品で、若い世代に向けたスナック菓子です。パッケージには斉内川や桜も入れてください。どのような商品パターンがあるか、できる限りたくさん出してください。」

Copilotの回答

「秋田県大仙市中仙地域のトマトを使ったお土産のバリエーションをもっと考えてみましょう。トマトの魅力を最大限に引き出すために、「トマト味のグミ」はどうでしょうか。子供から大人まで楽しめるお菓子です。また、「トマトパウダーをまぶしたナッツ」も健康志向のスナックとしてぴったりです。さらに、トマトと地元のハーブを使った「ハーブトマトクラッカー」も素敵ですね。地元の食材を活かした「トマトと米粉のクッキー」も、グルテンフリーの選択肢として加えることができます。そして、トマトのフルーティーさを生かした「トマトジャム」は、パンやヨーグルトに合わせやすく、多くの人に喜ばれるでしょう。また、トマトとチョコレートの意外な組み合わせを楽しめる「トマトチョコレート」も斬新なアイデアです。パッケージには、斉内川や桜の美しい風景を描き、商品の魅力を引き立てます。商品の説明には、トマトの栄養価や地域の歴史についての情報も加え、教育的な要素も取り入れることができます。これらの商品は、地元の特産品を活かしながら、若い世代にも楽しんでもらえるような工夫を凝らしたお土産となるでしょう。秋田県大仙市中仙地域の新しい顔として、これらのトマトを使ったスナック菓子が、訪れる人々に愛され、記憶に残るお土産となることでしょう。」
こんな感じで具体的に出してくれます。こうしたものも商品発想の一助として活用し実際にターゲットを決めて制作していく事になります。

商品の内容を考えるだけでかなり時間を費やすことも過去にはありました。しかし、この授業のねらいは、ターゲットに対してどのように伝えるかを考える事です。そこに時間を費やして考え試行錯誤して欲しいのです。生成AIを使って一発で答えを出してしまうのではなく、考える一助として使う分にはいいのではなかいと思っています。


Copilotを使用している様子

試行錯誤と客観的な視点

この授業のメインでもある試行錯誤の時間。ここが生徒が一番脂質能力を高める時間だと考えています。

スケッチとプロトタイプ


プロトタイプ1
プロトタイプ2
大きさや文字のバランスなど客観的に見て考える
アドバイスをもらう様子

生徒一人につき3人の生徒からアドバイスをもらうような通貨ポイントを設けています。自分のデザインを聞きたいイミングで聞くのですが、写真のように男子生徒が女子生徒にアドバイスをもらう際は緊張するようです。ここでは、批評をしてもらいます。ターゲットを事前に伝え、伝わるかどうかをポイントに助言をもらいます。視点は造形的なポイント(色、形、イメージ=全体の配色やフォント選び、全体の構成など)です。ターゲットを「若者」に設定している場合はなかなかと鋭い言葉が飛び交います。自分にはなかった視点でアドバイスをもらうことも多く、第一案からガラッと変わる生徒も出てきます。


見比べてより良いものを求める様子
実際に手に取って判断する

こうして仲間と一緒に試行錯誤を重ね、作品が出来上がります。
これまでの制作過程をプレゼンにまとめ、作品を提出して終了となります。

生徒作品1
生徒作品2
生徒作品3
作品展示

つくって終わり、じゃない

ここまでが通常の授業だと思います。しかし、デザインの授業はこの先に大切なポイントがあると思うのです。デザインは実社会とどう関係するのか?です。商品を考案しデザインすることを擬似体験すると、自分の身の回りにあるデザインに意識して見るようになっていきます。こうした視点の変化もとっても大切なことなんですが、自分が制作したものがどう受け入れらるか、と言うことも大切だと思います。そこで、地域の方々を招いて新商品プレゼン会を行いました。

プレゼン会の様子
プレゼン会の様子
デザイナーさんの講演会

この地域を盛り上げようと頑張っている大人たちを招いてのプレゼン会。地域活性化推進室の職員や大仙市地域おこし協力隊員の方々、地元の企業の方などをからたくさんのアドバイスをいただきました。自分の考えた作品の着眼点の面白さや優れたデザイン性、この地域の未来につながることなど、一人一人に対して真剣にアドバイスしてくださったこともありがたかったです。
最後はデザイナーとして第一線で活躍されていた地域おこし協力隊の明石さんに講演をしてもらいました。デザインするって、単にかっこいいものを作ればいいって言う話じゃないんです。いろんなことを複合的に考え戦略的に課題解決していく力が必要になってきます。

地域への発信と「共に考える場」づくり

授業後は、地域にある「道の駅なかせん」にて展示をさせていただきました。

道の駅の展示の様子

道の駅にはたくさんの観光客が押し寄せます。元々あるお土産も魅力的ですが、中学生が新たに考えるお土産コーナーが特設されてるって感じです。QRのアンケートを用意していたらコメントをくださいました。
「ターゲットに合わせてデザインやネーミング変える工夫が見られて、中学生ならではの視点が面白い展覧会だと思います!個人的には、「うま辛チップス×チリトマト」が気になりました!」
「中学生が地域を愛し、盛り上げる企画に嬉しく感動しました‼️若きパワー万歳🙌」
「皆さんの中仙を愛する気持ちが伝わってきました🎵中仙地区の住民みんなが皆さんの応援団です❗色々なところで個性を伸ばしながら頑張ってください‼️ 楽しみながら応援させてください。」など中学生を応援してくれるメッセージも!
本当にありがたいです。
このような展示の機会は、地域の未来を考える場、機会になると考えています。「美術で地域活性化は可能か?」その答えがこの展示にあるように思います。中学生だってこれだけ考えることができるのです。まちづくりにだってどんどん入っていけると思います。
美術の授業で「地域」をテーマに展開している理由の一つに、市民性を学ぶ、があります。シチズンシップ教育です。美術だから美術のことだけを学ぶのではなく、美術を通して市民性を学ぶこともできますし、社会や経済、科学なども学ぶことができます。「授業の先に何があるのか」これは私が常に思っていることですが、美術の教科に限らないと思います。もっと子供の力を信じて、授業の先にあるものを子供と共に考えて日々の授業を展開していく。この積み重ねが地域の未来を作っていくことに繋がっていくと思うのです。

最後まで読んでいただきありがとうございました!


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